「政府の本音」と「国民の老後不安」
家計調査報告によれば、負債保有世帯が37.7%を占め、その91.3%が住宅や土地のための負債だ。住宅ローンなどの支払いに追われていたのでは投資に目が向かない。
年代別では、50歳未満の純貯蓄額(貯蓄現在高-負債現在高)はマイナスである。貯蓄現在高が負債現在高を上回るのは50代となってからだ。50代の純貯蓄額は1208万円、60代は2251万円、70歳以上は2321万円である。
50代になると住宅ローンの支払いが終わる人が出てくるということだろう。だが、50代といえば子供の大学進学や親の介護などでまとまったお金が必要というケースが増えてくる年代でもある。これらのデータを見る限り、投資を考える余裕が出始めるのは60代が中心と思われる。
政府もこうしたデータは把握しているだろう。その上で、国民に投資を促しているということは、ここに政府の本音が隠されていると見ていい。
60代以上の資産運用と聞いて思い出すのは、「老後資金2000万円不足問題」だ。2019年、金融庁のワーキンググループが、高齢夫婦無職世帯は年金収入だけでは毎月約5万円の赤字であり、30年で約2000万円の金融資産の取り崩しが必要になるとの試算を公表し、国民に大きな衝撃が広がった。
この報告書が述べたかったのは、もちろん「2000万円の不足」などではなく、投資などによって資産寿命を延ばすことの重要性だった。
「資産運用立国」においても、ここの部分は変わらないだろう。政府が「老後資金2000万円不足問題」の際と共通して託しているのは、「公的年金だけでは老後資金は不足するので、足りない分は自助努力で調達してほしい」というメッセージにほかならない。