厳しい暑さが和らぎ、朝晩は秋の気配が感じられるようになった。秋といえば、行楽シーズン。夫婦水入らずで名勝をめぐるもよし、友達とおいしいものに舌鼓を打つもよし、ひとり自然の中でたそがれるもよし……。いつ、誰と、どこに行っても、旅は楽しいもの。だが実は、中高年こそ旅に出かける「効果」が大きいという。
中高年になってから弱り始めるのは、脳や筋肉ばかりではない。女性は特に、更年期の症状が出てくると、心もふさぎがちになることもある。
2年前から更年期うつに悩まされていた千葉県の53才の女性・Tさんも、旅行に救われた一人。心身の不調からつい夫や子供に当たってしまうことが増えて家庭内がギスギスする中、「気分転換に旅行にでも行けば」とへそくりの5万円を渡してくれた夫の厚意を受けて、2泊3日で温泉地に出かけた。生まれて初めてのひとり旅だった。
「家族旅行では常に子供を優先してプランを立てていましたが、自分の好きなように行動できて、それがとにかく新鮮でした。誰に気兼ねするでもなく食べたいものを食べ、見たいものを見て、気の向くままにフラフラしました。もう何年も子供の写真しか撮らなかった私があちこちで記念の自撮りをしていることに気づいたとき“私も自分の人生を楽しむことができるんだ”と、うれしさで涙が出てきました。
このときの旅をきっかけに少しずつ自分を大切にすることができるようになって、心身ともに前向きになれました。自分を後回しにしがちな主婦には、自由になれるひとり旅は本当にいい薬だと思います」(Tさん)
ひとり旅の利点について、精神科医の樺沢紫苑さんも言い添える。
「自由気ままであることが最大のメリットであり、脳の刺激にもなります。ガイドブックにあるコースをたどるだけでは意外性が少ないので、大まかな予定だけ立てておき“このお店、おもしろそう”“この駅で降りてみよう”など、予定外、想定外を楽しむのがおすすめ。すべて自分で決めて行動しなければならないので、グループ旅行やツアーよりも脳を活性化する効果が高いと言えます」