当時10社ほどの着物問屋と取引をしていたのだが、どこに問い合わせても金や銀の単色で全身を揃えるのは無理だと断わられた。池田氏は生地屋を訪ね歩き、最も金・銀に見える素材を選び出してイチから縫製した。
「結局1着50万円以上かかりました。ただ、うちはレンタル衣装屋なので、お客様からいただくのはレンタル料だけ。当時は3万~5万円程度でやっていました」
つまり2着で100万円近くの赤字だ。翌年以降、その衣装を借りてくれる人がいれば、いつかはもとが取れるのだが、「全身金と銀なんて、誰も見向きもしないだろう」と思っていたのだという。
「ところが、その金さん銀さんがものすごく目立ったらしく、翌年から同じような発注がガンガン入るようになったんです(笑)」(池田氏)
2008年の成人式では、その後の“北九州テイスト”のもとになったといわれる「虹キング」が登場する。
「私が勝手に虹キングって呼んでいるんですけど、その子は自分でラフを描いて持ってきたんですよ。虹色のド派手な袴、張り出した裃、ド派手な傘、ファーをふんだんに使った長着。このスタイルは北九州のトレンドとして、今でも継承され続けています」(池田氏)
成人式は毎年行なわれるが、参加する新成人たちにとっては一生に一度の経験だ。この日、この時だけはハメを外す彼らも、いつもは至極普通の大学生であったり、真面目に働く社会人だったりするのだという。「本当にいい子たちばっかりなんです」と池田氏は言う。
9月26日には北九州市の武内和久市長を表敬訪問した。市長はその席で、「みやびのデザインを市の独自コンテンツとして活用して行く」と宣言。今後、どんな展開があるのだろうか。(了)