今回の場合、お姉さんから「自分にすべてを任せるという遺言をお父さんが残した」と聞かされ、実際にはそのような事情はないのにあると誤解し(錯誤)、故人の遺志に沿うために相続放棄したのですから、その誤認した事情は相続放棄の基礎になっているといえ、相続放棄の決め手といえる重要な錯誤となります。
また、お姉さんはありもしないお父さんの遺言をもって放棄を要請したのですから、遺言があるという嘘が相続放棄の基礎になっていることはわかっていたはずです。そうであれば、あなたや甥御さんは、錯誤を理由に相続放棄を取り消せます。
相続放棄の申述をした場合には、家庭裁判所に取り消しの申述をします。申述が受理されれば、相続放棄をしなかったことになります。裁判所が却下すれば高等裁判所に抗告して判断を仰ぐことができます。事実上の相続放棄の場合であれば、錯誤により相続放棄を取り消すという趣旨の文書(取消通知)をお姉さんに出して、取り消しを行います。これにより、取り消された相続放棄は最初から無効であったことになります。
取消申述が受理されたり、取り消しを行った後は、お父さんの遺産を改めて遺産分割協議することになります。
ただしお姉さんの嘘がわかってから、取消通知の場合は5年以内に、取消申述は6か月以内にそれぞれ行う必要があります。弁護士に相談されることをおすすめします。
【プロフィール】
竹下正己/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2023年10月12・19日号