このように、仕事で成果を上げようと思うのであれば、日頃から「もし自分が○○だったら」と上司の立場になって会社の問題や課題の解決策と打ち手を考えることが非常に重要なのだ。
そういう癖をつけておくと、たとえば出張の新幹線で部長の隣の席になった時、「この件について、私はこう考えているのですが……」と提案することができ、それが的を射ていたら、部長に目をかけられて躍進出世の道が開けるだろう。
企業では、自分が「2階級上」の立場だったらどうするかを考えていなければならない。1階級上だと単に直属上司のアラを探して批判するだけになり、正しい解決策や打ち手を見いだせないからである。
RTOCSの授業では、年間約50社の解決策と打ち手を考えるわけだが、いま世間の関心が高い例で言えば、ビッグモーターだろう。では、もし私が同社の問題解決を任されたらどうするか?
“同じDNA”では改革できない
ビッグモーターは、やはり根っこから腐っている。創業者の兼重宏行前社長から経営を引き継いだ和泉伸二社長は、37歳から17年間も営業部門の専務を務めた“同じDNA”の持ち主であり、そんな人物に再建などできるはずがない。実際、今回の不正問題で経営が悪化したら、さっそく販売店1店舗あたり500万円の利益上積みを要求したり、従業員に社内情報を口外しないという誓約書を書かせたりした。ビッグモーターに次ぐ業界2位のネクステージも同根で同罪と暴かれており、損保ジャパンとの関係を見れば業界ぐるみの腐敗体質なので、自浄作用は期待できない。解体して資産をバラ売りするしかない、ということになる。
本稿執筆の9月末時点では、ビッグモーターの本格的な再建策は未定だが、幸い非上場企業なので一般株主に迷惑をかける心配はない。ビッグモーターは、悪い癖のついた社員の給料が割高というのでは買い取ってくれる会社もないだろうから、潰して資産を売却する以外に手立てはない。兼重親子は残った資産を社員の退職金に充て、その残滓で懺悔の余生を送ってもらいたい。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『「老後不安」を乗り越える シニアエコノミー』など著書多数。
※週刊ポスト2023年10月20日号