いくら仲のいい夫婦でも、同時に亡くなることは極めて稀だ。ある日突然、連れ合いに先立たれて「ひとり」に──そうなる可能性は、夫にも、妻にもある。シニア生活文化研究所代表理事の小谷みどり氏は「とりわけ男性が妻に先立たれると、身の回りの家事などができずに深刻な問題になることが多い」と語る。
「妻が死んでも、子供と一緒に暮らせば自分の面倒を見てもらえるのではないか」──そう考える人は少なくない。だが、実際には様々な問題が潜んでいると、『老後はひとり暮らしが幸せ』の著書があるつじかわ耳鼻咽喉科(大阪府門真市)の医師・辻川覚志氏は語る。
「元気な子世代と同居すると、つい頼りたくなるものです。しかし、人間の体というのは、使わなくなった能力から衰えが早くなる。子が頼れる存在であるほど、本来なら自分でできることまで、丸投げになりがちです」
さらに、家族とはいえ他者と生活空間をともにすることの弊害もある。辻川氏が続ける。
「ひとり暮らしなら生活のすべてを自分のペースで組み立てられますが、同居となれば、子供のリズムに影響を受け、自分の生活に制約が出てきます。しかも、現在の子や孫の世代は、ネットやゲームが生活に入り込んでいて実に忙しい別の世界の住人です。昔のような、のんびりとした同居生活のイメージとは様変わりしたものになる」
嫁は他人と肝に銘じる
たとえば、同居することになれば孫の育児を手伝うこともある。
「今の状況では、子世代の暮らしは楽にならず、なかなか親を支援する経済的余裕を持てません。その一方、親が孫の世話を手伝う側に回ると、親は元気なうちに楽しみたいと思っていた自己実現の時間を削らなくてはいけません。孫に振り回されている間に親と子の間で意思疎通がうまくいかなくなり、泥沼になる覚悟をしなければならない」(辻川氏)