彼はさらに続けました。
「それとは別に、もし300万円を年利9.6%(月利0.8%)で運用したとしましょう。すると、毎月もらえる利息は2万4000円になるんだ。運用というのは、そうだね、たとえば10年後に新駅が建設されるから、値上がりするであろうアパートや不動産を買った、とイメージしてみてごらん」
私は「わかりました……」と答えながらも、このあたりで段々、何の話をされているのかわからなくなって、困惑していました。
マイナスに見える投資が「価値」を生み出す驚きの理由
そんな様子もお構いなしにジョーさんの話は、核心に迫っていきます。
「借金の返済が2万7604円、もらえる利息が2万4000円。その場合、差額は毎月3604円だ」
私は耐えきれなくなって、ついこう言ってしまいました。
「……どういうことでしょうか? 結局、毎月3000円以上の出費になっていますね。それはマイナスの投資ということではないのですか?」
私がそう質問したとき、心なしかジョーさんの目がギラリと鋭く光った気がしました。暗闇のなか、スマホの光がジョーさんの顔を青白く照らし出しています。そうして、彼はゆっくりと話の続きを紡ぎ始めました。
「そう、一見マイナスに思える。だが、もう一度冷静に計算してみてほしい。最初に問うたとおり、毎月3000円の貯金を10年続けると、得られるのはいくらだろう?」
私は最初と同じように「36万円です」と答えました。
「正解だ。では、300万円を10年借りる借金をして、毎月3000円強を10年ほど支払うとどうなるだろう? 手元に何が残ることになる?」
それは、2つ目の話のことを指しています。
つまり彼は、「3000円の貯金」と「3604円の出費」について、私に比べさせているわけです。毎月、同じように3000円を使った結果、どういった違いが訪れるのか、と問いかけていました。私は賢くありませんが、このときは必死に頭を回して熟考しました。そして――。
「え!? もしかして……不動産ですか!? 同じように3000円を使って、300万円の不動産が手に入るということでしょうか!」
そう私が叫び出すと、彼は優しく教えてくれたのです。
「こちらも正解だ、おめでとう。君もたどり着くことができたね。それが、資産家たちの基本的な思考回路であり、本物のマネーリテラシーだ。一般社会ではなかなか教えてもらえないのが残念だけれど。3000円の使い方だけで、こんなに違うものなんだよ」