川端康成、三島由紀夫など、日本の文学史に名を残す作家たちが愛した「山の上ホテル」(東京都千代田区)が、耐震補強工事のため来年2月に全館休業することを発表した。アール・デコ様式の外観と昭和レトロな雰囲気で知られる同ホテルは、竣工から86年を迎え、老朽化への対応を検討してきた。工事期間は未定。具体的な営業再開時期の発表がないことに、「このまま閉館してしまうのでは」といった不安の声も上がっている。
「私も不安を感じる1人です」と語るのはホテル評論家の瀧澤信秋氏だ。
「老舗ホテルが耐震対策のために休業するのは珍しいことではありません。ただ、多くの場合は再開時期の目安も同時に発表するのですが、今回はそこが未定になっている。それゆえ、様々な憶測を呼んでいる状況です」(瀧澤氏)
コロナ禍での3年に及ぶ自粛期間もあり、ホテル産業は大きな痛手を受けた。瀧澤氏が続ける。
「特に高級ホテルシーンでは近年、外資系VS国内系ホテルの戦いのような図式になってきました。所有と運営が別々になっていることは外資に限らず一般的なホテルの構図ですが、山の上ホテルを含め、日本の高級ホテルは所有と運営を同一の主体が担っているケースが見られます。資金力についても外資系に分があることは、コロナ禍を経て、プリンスホテル(西武HD)も施設の一部をシンガポール政府系投資ファンドに売却すると発表したような例を見てもわかります。山の上ホテルも外資系の攻勢やコロナ禍で様々な意味でかなり疲弊しているだろうことは想像に難くありません」