岸田文雄首相が「(第3号被保険者について)抜本的に制度を変えないといけない」と発言したのは、10月上旬のこと。第3号被保険者(以下、第3号)とは、会社員・公務員などで厚生年金に加入する者(第2号被保険者)に扶養される配偶者のことを指し、国民年金の保険料を支払わなくとも加入期間はカウントされ、将来満額の国民年金を受け取れる仕組みだ。「年金博士」こと、社会保険労務士の北村庄吾さんが解説する。
「第3号が廃止になれば、新たに国民年金の保険料を月1万6520円、年間で19万8240円払う必要が生じます。妻に収入がなければ、夫が妻の保険料を負担せざるを得ない。2021年度末時点で、第3号対象者はおよそ760万人となっており、保険料徴収が始まれば約1兆4000億円の財源になる」(北村さん・以下同)
第3号撤廃案に対しては反発も大きい。そこでこの案の行く末を明確にせずに、岸田内閣が大きなメスを入れようとしているのが「年収の壁」対策だ。
第3号には完全な専業主婦だけでなく、パートタイムで働いて収入を得ている対象者も少なくない。しかし、従業員数100人以下の企業で働いている場合は「年収130万円未満」、101人以上の企業なら「年収106万円未満」であることが第3号の条件となっている。
岸田内閣は、年収の壁が賃上げや働き手不足の要因になっていると“敵視”し、いかにも労働者のためであるかのように撤廃を進めるが、本当の狙いは別にあるという。
「政府は第3号の数を減らし、厚生年金保険料の納付義務者を増やそうとしているのです。壁を超え、厚生年金保険に入ることにメリットがないわけではありません。ただし、給料から15%ほどが保険料として徴収されるので、手取りが減ってしまう。その分、国民年金に加え厚生年金も受給できますが、減った分の元を取るには、年金受給開始から17年もかかる試算になります」
年収の壁撤廃、第3号廃止が実現すれば女性の年金は激減し、ひいては老後に大きなダメージが与えられることは疑いようがない。
政府は昨年、厚生年金対象者拡大と同時に、目減りする国民年金受給額を補填するため、厚生年金の報酬比例部分の受給額を減らす議論も始めた。また今年10月には「将来的な年金の給付水準の低下をできるだけ防ぐ」ために、国民年金の保険料の納付期間を、いまの60才までの40年から65才までの45年に延長する案の検討に入るなど、改悪の手が止まらない。