複雑だった家族関係が晩年になって良好になっていくことも少なくない──。「おヒョイさん」の愛称で親しまれた俳優・藤村俊二さん(享年82)の長男の亜実さんは「ずっと疎遠だった親父の介護を通じて自分とも向き合うことになり、ふたたび愛する気持ちで見送ることができた」と話す。
大学卒業後、亜実さんはアメリカに留学するが、その後、藤村さんが亜実さんの母と離婚したことを知らされる。やがて藤村さんがほかの女性と再婚したことをニュースで知ると、間もなくして親子の仲は疎遠になり、家族と実家を失った亜実さんは結局15年間、アメリカに住み続けることになった。
帰国後、藤村さんが別居してふたたびひとりになったため亜実さんは父と2人暮らしを始めた。ほどなくして藤村さんは離婚し、それから間もなく小脳出血で倒れ、亜実さんが介護することになった。
「当初ぼくには“裏切られた”とのわだかまりがありました。でも介護中に子供のような目をしてぼくの手からご飯を食べる親父を見て、親父にも悪気があったわけではないと気づき、すべての怒りや寂しさを手放そうと思った。その瞬間、ふたたび子供の頃のように素直に愛せるようになったのです」(亜実さん・以下同)
介護中、亜実さんは週の半分を泊まりがけで病院で過ごし、病院や施設の近くに引っ越せるよう荷物の整理を始めた。しかし藤村さんの容体は徐々に悪化し、倒れてから1年3か月でこの世を去った。