左のように直線だけのものと右のように楕円にした線がある。この2つを比較すると、右のほうが隣の車と左右等間隔で駐車しやすくなり、接触トラブルを防げる確率が格段に上がる。ドライバーは楕円ラインのほうが左右等間隔に駐車しやすいから、このような種類の線があるのだ。
これと似た例がある。玄関から部屋に上がるときに、靴を脱ぎ散らかす子どもに手を焼いた母親が、あるときチョークで玄関の床に、子どもの靴にぴったりの足型を描いた。すると子どもは自然と靴を、そこに揃えるようになった。
チョークで描いた楕円の足型に靴を置く。駐車場の楕円ラインに入れないように駐車する。つまり、この2つには「楕円を基準にする」という共通項がある。
もし、チョークで足型を描くという小さなイノベーションを知っていたら、駐車場の設計に「組み合わせ」て、駐車場に楕円のラインを引くという小さなイノベーションを生み出せる可能性は上がる。
一方で、駐車場に楕円ラインを引いたほうが左右等間隔に駐車されやすいという駐車場の設計知識があれば、靴を脱ぎ散らかす子どもの心理と「組み合わせ」ることで、チョークで足型を描くという小さなイノベーションにつながる可能性が高まる。
子どもの心理と駐車場の設計。このように、まったく違う知識を「組み合わせ」る(点と点をつなげる)ことで、小さなイノベーションは生まれた。
分野を横断する知識の身につけ方
分野を横断した幅広い知識があれば、異なる分野の知識を簡単に「組み合わせ」られる。では、そのような知識を、どう獲得すればいいのだろうか。
本を読む習慣のある人は、これまで読んでこなかった分野の本を読んでみよう。読書が苦手ならオーディオブックを活用するのもいい。友人、同僚、専門家と交流し知識を得ることも可能だ。同じ会社の人や仕事仲間でないほうが知識の幅は広がる。SNSの交流グループなどに参加するのもいい。録画した教育番組やドキュメンタリー番組などを、時間のあるときに観るのもいい方法だ。
気になることがあったら検索して周辺知識を得る習慣をつけると、知識は深まる。ニュースの通知を受け取るようにするなどインターネットを活用するのもいい。
ぜひ気に留めておいてほしいのは、自分の専門外の知識、社内ではなく社外の知識に対して貪欲さがあったほうが「組み合わせ」には有益ということだ。
シュンペーター、ポアンカレ、クリステンセン、ヤングらが示したように、既存の知識の「組み合わせ」から創造性は生まれる。
これはテクノロジーの分野でも同じだ。スマートフォンはパソコンと電話を「組み合わせ」てコンパクトにしたもの、あるいは電話とカメラを「組み合わせ」たものとも言える。
ここに至るには、従来のパソコンの機能や内部構造の知識、また電話やカメラの内部構造の知識を、ある程度もっている必要がある。それらがないと「組み合わせ」た新しいもののかたちや実現可能性をイメージするのが困難だからだ。