人のよさそうな東北なまりの社長と、社長にしなだれかからんばかりに甘える女性。2人の掛け合いがどこか心地よいCMが流れ始めて7年。「あの女性は誰?」「どう見ても愛人でしょ」などという声がこのところ喧しい。彼女の名は保科有里。デビュー30周年を迎えたベテラン歌手だ。そんな保科有里の素顔に迫った──。【前後編の前編。後編につづく】
「社長と出会ってから……そうですねぇ、16年になりますか。えぇ、最初の頃はあんなふうに甘えた声を出すことなんてできませんでした。何しろ相手は社長さんで、売れない私を大抜擢してくださったかたですから、恐れ多くて」
東京都心にあるビルの一室。数台のテレビカメラと色とりどりの衣装が吊るされた衣装ラックが雑然と並ぶ、20畳ほどのスペース。無造作に置かれた椅子に腰かけた保科有里(61才)は、往時を思い出しながら、ひと言ひと言丁寧に語り始めた。
「ほしなゆり」という名前を知らなくても、「夢グループ」のCMに社長(石田重廣さん、65才)と一緒に登場し、甘い声で「安くして~」と科をつくる妙齢の女性、といえばピンと来るだろう。
「“愛人”ですか……えぇ、よく言われます。私は歌手としてまだビッグヒットはありませんが、『夢コンサート』で小林旭さんや島倉千代子さんらと共演させていただくと、『保科はいらないんじゃないか』とか『社長がえこひいきしているからだろ』なんて露骨に言われました。
ずっと悩んできました。でも、もうふっきれました。“愛人上等!”なんて開き直るつもりはありませんが(笑い)、私のこのキャラが多くの人の関心を集め、『夢グループ』に貢献できるのであれば、むしろ光栄です」(保科・以下同)
生家はクリーニング店
口調こそ明るく屈託ないが、彼女が語り始めた“過去”は決して平坦な道のりではなかった。
石川県金沢市。繁華街・片町にほど近い長屋の集まる一角に、保科は生まれた。生家はクリーニング店。父と母、8才下の妹との4人暮らしだった。小学校は地元でも「レベルが高い」といわれた金沢大学附属小学校に通った。
「小・中学校とも国立でしたが、裕福な子が多かったことを覚えています。登下校時に高級車で送迎される子がいたり、お昼も豪華なお弁当を当たり前のように食べる子がいたり。私はバス通学で、子供料金が15円だったのを覚えています。お昼は必ずお手製のお弁当でした。だから、当時はそんな言葉をもちろん知りませんでしたが、私なりに“格差”を感じていました。
学校が終わったらひとりで帰ることが多かったですが、バスを降りて家に向かう間、ひとりで好きな歌を歌いながら歩くのが唯一の楽しみでした」