サラリーマン人生で税金を減らせる最大の機会が退職金だ。受け取り方には一時金(一括払い)、年金方式(分割)、一時金と年金の併用型の3パターンがあるが、どれを選ぶかで納税額が大きく違ってくる。税理士でマネージャーナリストの板倉京氏が語る。
「退職金は一時金で受け取るほうが得になるケースが多い。『退職所得控除』という税制優遇措置を最大に利用できるからです。年金方式で受け取る場合、退職金の運用益が上乗せされるため一時金でもらうより額面上の総額は大きくなりますが、分割払いの退職金には毎年、所得税・住民税と社会保険料が課せられるので、手取りは損になる可能性が高い」
退職金の非課税枠である「退職所得控除」は勤続年数が長いほど大きく、勤続38年(大卒入社で60歳で退職)なら2060万円、勤続43年(大卒入社で65歳退職)なら2410万円まで税金がかからない。勤続年数や年利にもよるが、年金方式だと手取りで総額100万円以上損するケースも出てくる。
現在は退職金に一時金と企業型DC(確定拠出年金)の「併用型」を採用しているケースも多い。企業型DCは企業が掛け金を負担し、社員個人が運用方法を選ぶ「年金方式退職金」の一種で、加入者は1000万人を超えている。
この企業型DCは60歳以降(10年以上加入の場合)なら勤続中でも受け取ることができるし、受け取り方も「一括」「5年」「10年」「15年」「20年」「終身型」などが選択できる。ここでも得するもらい方にコツがあり、やはりポイントは退職金の非課税枠(控除)だ。
「最近は定年延長で65歳以降まで勤続する人が増えています。企業型DCと退職金との併用型で最も税金を安くできるのは、まず60歳になった時に勤続中であっても企業型DCを一括で受け取り、65歳以降の退職時に退職金を一時金で受け取るという方法です。税制上、企業型DCを受け取ってから4年を超過して退職金をもらえば、退職所得控除を2回受けられる“5年ルール”が適用されるため、同時に受け取るより税金はかなり安くなります」(板倉氏)
たとえば、退職金(一時金)が2400万円、企業型DCが610万円(16年以上加入)のケースで試算すると、65歳の退職時に同時に受け取れば、合計額が退職所得控除(2410万円)を上回って約50万円の所得税・住民税が取られる。
それに対して、企業型DCを60歳、退職金を65歳で受け取ると、どちらも退職所得控除の枠内なので税金はゼロだ。
注意が必要なのは、先に退職一時金をもらい、後で企業型DCを受け取るパターンは「5年ルール」が適用されないということだ。間違えないようにしたい。