そもそも勤続年数が長いほど有利になるしくみは終身雇用を前提としており、転職を妨げ、雇用の流動化を阻害していると指摘されてきました。そこで政府は「経済財政運営と改革の基本方針2023」で、勤続年数による税優遇の格差を是正するとしています。このため、今後は長く勤めた人の優遇がなくなったり縮小したりする可能性もあります。
ただし、個人の老後の生活に大きくかかわる税制のため、当面はなんらかの経過措置が設けられ、事実上は現行制度がしばらく継続する可能性が高いと考えられます。現行制度では同じ会社に21年以上勤めた人が退職金の税では有利になりますが、税制の改正やその内容については、最新情報をチェックするようにしましょう。
Q:退職日を1日遅らせると、退職金の「手取り」が増えるってホント?
A:退職所得控除を1年分増やし、退職金の税金を減らせることもある
退職所得控除は勤続年数が長いほど大きくなって税金を減らせるため、退職金の手取りを増やすことが可能です。20年勤めれば800万円までは無税で、21年なら870万円、22年なら940万円と、1年長く勤めるごとに70万円の控除額が追加されていきます。
60歳の定年退職時点で退職金を支払い、それ以後の再雇用で働き続けた社員には、次の退職時に2度目の退職金を支給してくれる企業もあります。この場合は、60歳からの再雇用で勤務した年数で退職所得控除を計算します。
勤続年数の数え方は切り上げなので、1年に満たない端数は1年と数えて計算します。このため、20年と1日勤めた人は21年とカウントされ、退職所得控除をより多く受けることができ、退職金の手取りが増えることになるのです。
退職日をどう定めるかは会社の就業規則で決まっていますが、法律で決まっているわけではありません。大企業だと融通を利かせるのが難しいことも多いのですが、本人の希望に添い柔軟に運用してくれる企業もあります。少し遅らせれば勤続年数が1年増える場合は、定年退職日の調整ができないか交渉してみる手はあるでしょう。この裏ワザは2度目の退職金の支給時にも活用できます。
ただし、決められた退職日をずらすと定年退職の扱いではなくなり、自己都合退職になる企業もあります。離職理由が自己都合だと退職金が減額される場合があるほか、失業保険を受けるまでの期間が長くなってしまいます。定年ではなく自己都合になることで勤務先に大きな不利益はないので交渉すべきではありますが、退職所得控除を1年増やすことにこだわると、デメリットのほうが大きくなる場合があることは覚えておく必要はあるでしょう。
2023年の政府の骨太方針では、自己都合退職者の退職金を減額する労働慣行の見直しや、自己都合退職でも短い待機期間で失業保険を受けられるようにすることも検討されています。最新の状況をチェックして判断しましょう。