岸田内閣の支持率下落が止まらない。NHKの最新の世論調査(7月7~9日)によれば、支持率は前月の調査より5ポイント下がって38%となった。マイナンバーカードのトラブルなどが国民の怒りを買っているわけだが、さらにサラリーマンにとっては聞き捨てのならない「退職金増税」という話まで浮上しているというのだ。
政府が6月16日に閣議決定した経済財政運営の方針(骨太の方針)と新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画に盛り込まれたのが「退職金課税の見直し」である。大手紙記者はこう言う。
「現行制度では勤続年数が長いほど退職金の控除額が大きくなる仕組みになっています。退職所得控除の額は勤続20年までは毎年40万円ずつ増えていき、勤続20年を超えると毎年の増額が70万円に跳ね上がるのです。退職金から退職所得控除額を引いた金額の2分の1に所得税(額に応じて5~45%)と住民税(10%)が課せられますが、勤続年数が長いほど控除額が大きくなる。20年を超えて長く勤めた人がより優遇される仕組みと言えます」
この退職金課税の仕組みを見直そうということなのだが、新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画には〈退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年当たりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う〉とある。今回の動きについて、ブレイン社会保険労務士法人代表で社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
「退職金は老後に備える資金という特性があるため、税制面で優遇されてきました。退職金の額から勤続年数に応じた控除額を差し引いて、さらに2分の1にしたものが課税対象です。老後のための資金をできるだけ残してあげたいという考えが基本としてあったわけです。また、退職所得控除は勤続20年を超えると控除の増額が1年あたり40万円から70万円に上積みされるわけですが、長く勤めた人の労に報いるという考えも投影されています。いわゆる年功序列を前提とした雇用慣行に基づく制度とも言えます。
今回の見直しは表向き、そうした長く働く人への優遇を見直し、労働市場を流動化させることが目的だと説明されています。ただ、見直しが進んだとして、どこまでその目的が果たされるのかは疑問です。退職所得控除が見直されたからといって中高年のサラリーマンが “長く勤めていても意味がない”“転職しよう”といった考えに傾くとは思えません。政府は雇用の流動化と言っていますが、これは単純に増税という話ではないか。税金を取れるところから取ってやろうという姿勢が透けて見えます」