高齢者全体から「薄く広く」徴収するのにも限界がある
年金受給者は現役世代よりも住民税非課税世帯の対象となる所得要件が甘いとはいえ、高齢世帯の3分の1ほどが住民税非課税世帯となっている。非課税世帯は医療費や介護費の自己負担軽減、政府や地方自治体の給付金や補助金の対象になりやすいといった恩恵も少なくないため、最近では老後不安への対策として、あえて住民税非課税世帯を目指す人まで登場している。
高齢者全体から「薄く広く」というのは無理があるのだ。いくら2040年代初頭まで高齢者数が増加すると言っても、高齢者の負担能力の低さを考えると現役世代の負担を大幅改善できるほどにはならないだろう。
高齢者には裕福な人もいるが、富裕層に対しては「全世代型」を語るまでもなく「現役世代並み」の負担がすでに課されている。仮に富裕層にさらなる負担を求めることになったとしても対象人数は限られる。
内閣官房によれば、家計金融資産の6割超を60代以上が保有する。このため、高齢者に関して「所得だけでなく、保有資産も自己負担割合を決める算定基礎にすべきだ」との意見が少なくない。だが、これもハードルは高い。資産といっても預貯金や金融商品など換金性の高いものばかりではないためだ。多くは自宅の土地・建物である。不動産の場合、資産価値が変動しやすいという難点もある。むろん1000万円を超す現預金を保有する高齢者も少なくないが、その大半は公的年金の不足を補う老後資金としてコツコツと貯めてきたものだ。