自民・公明各党の税制調査会で、来年度の税制改正に関する本格的な議論が11月17日に始まった。12月半ばまでに与党「税制改正大綱」としてまとめられる予定だが、焦点とされる「所得減税」案に対する世間の評判は決して良いとはいえず、岸田文雄・首相を揶揄するあだ名として定着した「増税メガネ」のイメージは払拭されそうにない。そうした世間の風潮に、歴史作家の島崎晋氏は「政府は国民の“課税強化への反発”を甘くみてはいけない」と指摘する。どういうことか。島崎氏が解説する。
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今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネート語30には含まれていないが、ここ数か月、ウェブ上で「増税メガネ」の文字を見ない日はない。
所得税減税が決まったとはいえ限定的で、現在は「扶養控除の縮小」が検討されているほか、2024年度の実施は見送られたものの「防衛増税」が予定されており、さらに「国民年金保険料の支払い期間を5年延長」案など、全体としては国民の大幅な負担増となるのが目に見えている。支持率の激減と地方選挙での連敗に直面しても、岸田文雄首相には立ち止まり、国民の声に耳を傾ける姿勢が希薄に感じられる。これでは当人にとって面白からぬあだ名を付けられるのも無理はないだろう。
政権の危機を指摘する声もあるが、国民の間に広く浸透した不満は内閣退陣くらいで鎮まるものだろうか。増税や課税が発端で、甘く見ていたら痛い目に遭うどころか、取り返しのつかない事態となった例は世界史上にいくつも見られる。アメリカ独立戦争やフランス革命がそれである。
課税強化が引き起こしたアメリカ独立戦争、フランス革命
アメリカ合衆国は1776年までイギリスの植民地だった。数ある植民地のなかで、もっとも将来性に溢れていたことから、イギリス政府は納税義務を最小限に抑えるなど、北米植民地に対して大幅な自由を許していた。
けれども、本国の財政が苦しくなれば、いつまでも特別扱いを続けるわけにもいかない。イギリスは何度も課税を強化しようとするが、北米植民地には本国の繁栄に大きく貢献しているとの自負があったため、そのたびに猛烈な反対運動が沸き起こった。アメリカ独立戦争はこの対立が高じた果てに始まり、外国からの人的・物的援助のおかげで、独立を勝ち取ることに成功。イギリスにしてみれば、藪蛇よりさらに悪い結果となってしまった。