たとえば父が遺言書で多くの財産を相続させるとした長男が先に亡くなった場合、その分は無効になり宙に浮く。行政書士の明石久美さんが説明する。
「長男に子供、つまり遺言書を書いた人の孫がいる場合でも、長男に相続させるはずの財産が直接孫に渡ることはなく、宙に浮いた分は相続人全員で遺産分割協議が必要になります。孫に財産を渡したいなら、長男が亡くなった時点で遺言書を書き換えるか、長男が先に亡くなったときにどうするのか予備の内容を書いておくなどした方が財産の移転はスムーズです」
妻が先立つケースも要注意だ。配偶者は、相続した遺産が1億6000万円以下なら相続税がゼロになる配偶者控除が適用されるため、夫が妻に多くの財産を残す遺言書を書くケースが多い。年下の妻を乳がんで亡くしたBさん(81才)が語る。
「妻の生前、節税になるからと妻の相続を多くする遺言書を作成しました。ところが妻が急死したので途方に暮れていると、“このままでは奥さんの相続分が無効になり、残された子供たちが遺産をどう分けるかで揉めるかもしれません”と税理士にアドバイスされ、私の死後に子供たちが争わないよう急いで遺言書を大幅に書き直しました。妻も望まなかったはずのトラブルを避けられて安堵しています」
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