周辺にスーパーがなく八百屋が敷地内で移動販売
表参道の都営住宅の家賃が安いといっても、そこで暮らすとなれば楽ではないようにも思える。都心の一等地だけに、食料品や日用品などの物価が都内でも断トツで高いはずである。片山氏はこう続ける。
「この都営住宅で暮らす人にとって、青山には買い物をするところがないんです。特に、この辺には大手のスーパーがない。今は八百屋さんが毎週火曜日と土曜日に、この都営住宅の敷地内に、野菜を販売しにきています。東京都に許可をもらって出店されているんですけど、これがないとかなり不便ですね。地域全体で買い物するところが少ないから、この都営住宅に住んでいない方も評判を聞きつけてここに買いにくるくらいですよ。
生活が苦しいうえに、高齢者の一人暮らし特有の不安や悩みを抱えている住人も多いです。ここ5年間で私が知っているかぎり、孤独死が4件ほどありました。また、生活に困窮して1か月4万円ほどで生活しているところが2世帯ぐらいあると聞いています。そのうちの1世帯は毎週2人のお子さんが、何日かおきに、食料品だけ差し入れに来るらしいです。
ただ、生活が苦しいからといって、ここから引っ越していく方はいません。私は約40年前からここに住んでいますが、子供のころから60~70年間、ここで暮らしてきた方がほとんどです。長く住まれている分、どんなに物価が高くても、工夫しながらここで暮らしていこうと考えている方が多いようです。
テレビなどでは、タワーマンションの都営住宅だって面白がって取り上げていましたが、いい迷惑ですよ。みなさんが思っている以上に、ここの住人の生活はシビアです。“老人ホーム”って言ったほうがいいくらいだと思います」(了)