ネット言論の拡大が影響?
いま世界は、アメリカの政治学者イアン・ブレマーが2011年に指摘した「Gゼロ」(G7の主要国が指導力を失い、G20も機能しなくなった国際社会)の状態が、ますます加速して混迷を深めている。
G7の首脳は岸田首相とバイデン大統領だけでなく、イギリスのスナク首相もドイツのショルツ首相もフランスのマクロン大統領も指導力のない小粒なリーダーで、政権維持に汲々としており、いずれも“次”はなさそうだ。むしろプーチン、習近平、北朝鮮の金正恩のような国際秩序を攪乱する独裁者がいるだけに、「Gゼロ」どころか「Gマイナス」とも呼ぶべき状態になっている。
なぜ、このような“リーダー不在”が世界的に広がっているのか? その疑問を解消する明確な理由はわからないが、もし大きな原因があるとすれば、ネットやSNSの影響だろう。
ネットメディアやSNSの発達に伴い、既存のマスメディアとは異なる言論・情報空間が拡大して世界中で人々は賢くなっているが、その人たちの不満や怒りを集約化して受け皿になれるだけの政治家や政党はどこの国にも存在しない。
また、情報の拡散・共有が容易になったため、人々はネットメディアやSNSに自分の意見を投稿することでストレスを発散し、その空間の中で早々と不満や怒りを収めるという“熱しやすく冷めやすい”状況になっている。まさに「人の噂も75日」だ。このため、人々の関心は短期間で次の問題に移るようになり、そのスピードに政治は全く対応できていない。
さらに、世界は情報だけでなく、ライフスタイルも共通化している。たとえば富裕層の人たちは、欧米諸国であれアジア諸国であれ、自分たちの生活を妨害されない限り、政治には「我関せず」だ。
だから、どこの国でも政治家は選挙対策で人口の大多数を占める中間所得層以下の人々を対象にしたバラ撒き政策ばかり打ち出しているわけだが、それは結局、右傾化と財務の悪化を伴うポピュリズム(大衆迎合主義)でしかない。
1989年の冷戦終結後は「イデオロギーの終焉」と言われたが、いまや世界のどこにも確たるイデオロギーに基づいて国を司り、国際的なリーダーシップを発揮できる為政者はいない。だから「Gゼロ」が加速しているわけで、それは今後も続くだろう。したがって我々は当面、自分たちの生活防衛に徹しなければならない、ということになる。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年1月12・19日号