父の相続で「地獄の手続き」
すい臓がんと闘う一方で、森永さんは将来に備えた準備も進めている。そのひとつが、冒頭で紹介した「USBメモリー」である。そのなかには、森永さんの全資産のリストが収められ、康平さんと次男は父の資産をすべて把握できる。
そうした準備を怠らないのは、森永さんがかつて実父が亡くなったとき、「地獄の手続き」に苦しめられたからだ。
森永さんの両親は母が先に亡くなり、父は晩年に脳出血で倒れ、要介護4の寝たきりになり、森永さん夫婦が最後まで面倒をみた。
意思疎通は可能だったが、万が一に備えて銀行口座の数やどこに通帳があるかを父に尋ねても「わかんねえな」の一点張りだったという。
「そのとき森永さんは、『通帳なんて銀行の貸金庫に入っているだろう』と軽く考えていたそうですが、2011年3月にお父さんが他界して貸金庫を確認すると、金目のものは何もない。親の資産がどこにどれだけあるか、皆目見当がつきませんでした。
亡くなってから10か月以内に相続税の申告をすませないと脱税になってしまうため、森永さんは深夜まで実家にこもり、銀行や証券会社、父の勤め先からの郵便物を一つひとつ確認し、ようやく銀行口座を9つ、証券口座を2つ見つけたそうです」(前出・森永さんの知人)
だが、本当に大変なのはそこからだった。口座確認の際、預金者の生前の全戸籍謄本が必要とされたのだ。
かつて本誌の取材に、森永さんは父が亡くなってからの苦労をこう語った。
「新聞記者だった父は、九州や神戸など全国あちこちに異動しており、戸籍謄本をすべて取得するのは気が遠くなるような作業でした。しかも、苦労して開示した口座の残高が700円だったこともあります。そのときは頭に来て、『相続放棄します』と言ってしまったぐらいです」
ようやく調べた遺産総額は不動産や預貯金を合わせて約1億円に達した。
「森永さんと奥さんは10年以上も自宅で両親を介護し、数千万円に及ぶ費用を負担したが、遺言書がなく、弟と話し合いの末に遺産を折半しました。骨肉の争いを避けるためですが、森永さんには、“父の介護にかかったお金について細かに記録しておけば”と後悔も残ったそうです」(前出・森永さんの知人)
さらに、交流関係の広い父の通夜葬儀に想定外の数の弔問客が訪れ、応対のために400万円のキャッシュが飛んだことでも懐を痛めたという。