2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』では、日本初のベストセラー女流作家・紫式部にスポットがあたる。宮廷を舞台に、美貌と才能を兼ね備えた光源氏と女性たちのめくるめく恋愛模様が描かれる『源氏物語』は“日本一有名な小説”と言っても過言ではない。その『源氏物語』には紫式部のどんな思いが刻まれていたのか──。【全3回の第2回。第1回から読む】
男女平等を実現するためには、女性が男性をうまくコントロールしてこそ──そんな女性の在り方が紫式部の描いた源氏物語からは透けて見える。男性に媚びずに生きる姿勢は、同性からも支持を得ていたようだ。
『源氏物語』を大胆に読み解き、大ロマン長編として現代によみがえらせた『新源氏物語』を書いた作家の故・田辺聖子さんは生前、紫式部を「女性としても多くの人から愛されたのではないか」と分析していたという。
「伯母(田辺さん)は、“行き遅れておじさんをあてがわれた紫式部が憂さ晴らしで物語を書いた”という戦後の注釈に憤慨したんです」と語るのは、田辺さんの姪の田辺美奈さん。田辺さんは、「物語を丹念に読めば紫式部の人となりがわかる」と繰り返し言っていたという。
「伯母の推測によると、紫式部は学者である父親や年上で社交的な夫から政治や学問など世の中の森羅万象を教わり、さらに道長をはじめとする数多くのボーイフレンドや手だれの女官たちを通じて、男女の機微や恋愛のあれやこれやを吸収したのではないかとのことです。だからこそ、あそこまで豊潤で深い男女の関係を描けたのだと語っていました」(美奈さん)
実際に紫式部は自身を一躍有名にしたパトロンである藤原道長を筆頭に、“当代一の才人”とされた藤原公任など名だたる男性から愛され、時にはアプローチも受けていたとされている。
そうした中で恋愛に翻弄されず、物語として昇華させていった紫式部に田辺さんは“先輩作家”へのリスペクトも込めて過去のエッセイでこんなふうに綴っている。
《恋は理性では止められない、誰もが落ち込む人生の罪であって、そういうことは世の中にたくさんある。それをどんなふうに美しい物語に変えていくか、土を玉にしていくか。そういうつもりで人生を生きなければ、というふうに式部は思っていたかもしれません》