「実家から通った方がご両親も安心するよ」
女性の一人暮らしが警戒されていたのは、一般職だけでなく総合職であっても同様のようだ。メーカー勤務の40代女性・Dさんは、新卒で入った会社で「女性は実家暮らし前提」という風潮に戸惑った。
「多くのビジネスの場で女性が男性と対等ではない時代で、かつ氷河期だったので、男性以上に女性の採用人数が絞られました。やっと入った会社でも、職場に男性は何十人もいるのに、総合職の女性は私だけ。そのためか、女性が自立した仕事をするための条件が全然整っていなかったというか……。
実家は神奈川県ですが、勤務地が埼玉県に近い場所だったので、片道2時間ほどかかる。通勤時間がキツイと思ったので、社員寮か社宅に入れないかと思ったのですが、寮は男性用のものは都内にいくつもあったのに、女性用の寮はありませんでした。
社宅については、マンションの部屋を会社が借り上げるタイプのものがあったのですが、それは地方住みなど、どうしても通えない人が優先され、私のように“頑張れば通える”人は社内審査が通らない。さらに、『女性は前例もないからさらに厳しい』と言われてしまいました。男性が多い社宅に、女性がいるのはよろしくないという話でしょう。
挙げ句、『女の子なんだから、実家から通った方がご両親も安心するよ』と謎の説得をされてしまいました。つまり、女性は実家通いが前提で、何の環境整備もなかったということです。結局、2年がんばってお金を貯め、自力で一人暮らしを始めました。ちなみにいえば、寮や社宅があるという理由で、普通に一人暮らしをする人向けの家賃補助は雀の涙。その後寮は廃止され、家賃補助の金額もだいぶ上がりましたけどね。時代ですね」
現代では一人暮らしは自立しているという印象を与えそうだが、さまざまなマイナスイメージがつきまとった時代もあったのだ。(了)