謎めいた話だが、本名も家も知らず、携帯電話やメールもアウトなら、連絡の取りようはない。Nさんは今さらながらAちゃんについて、こう推測する。
「恐らく私とは不倫だったのでしょう。確かに彼女は働いていないのに、お金に困る様子はありませんでしたし、年末年始に会うのはNG。突然連絡が途絶えたのは私との関係がバレたから。そう考えればすべて辻褄は合います。
今から思えば、交際相手の素性がわからないと、事件や事故に巻き込まれた時に面倒なことにはなりますよね。仮に彼女から何かを盗まれ、姿を消されても追いかけられないし、危うかったなとは思います。
ただまあ、素性を深く詮索したら関係は早々に終わっていたでしょうし、事情が分からなかったので、ヨソの家庭を壊したという罪悪感もない。楽しい時間が過ごせたので、自分のなかではよい思い出です」
深入りしないからこそ長続きする人間関係は、ひとつの処世術といえるのかもしれない。(了)