「袖振り合うも多生の縁」「遠くの親類より近くの他人」「魚心あれば水心」──いずれも人との縁の大切さを表すことわざだが、現実には付き合いがどれだけ長くても、相手のことをあまり知らないのはよくある話。
知らないからこそ上手くいく関係、知らないほうがラクな関係も世の中にはある。「長年の付き合いだけど、相手の名前をちゃんと知らない」という人たちに、なぜ聞かないのか、聞かないことによるメリットは何かを聞いてみた。
“無粋なことはするなよ”みたいな雰囲気と適度な距離感
Yさん(50代/男性)の場合、常連のバーでの人間関係がまさにそれだ。
「私はすでに20年以上も通っているバーがありますが、週に2回は顔を合わせ、ペチャクチャと与太話をする常連仲間やマスターについて、詳細なプロフィールは何も知りません。バーテンは“マスター”、常連仲間は“ナベさん”“会長”“ユウちゃん”といった具合でフルネームも知りませんし、仕事もボンヤリとしか知りません。
店に通い始めた頃は自分が一番若くて、ドライな関係がすごく大人に見えました。今でもその感じが心地良いんですよね。時に隣り合った一見のお客さんと会話が弾み、名刺やLINEの交換を求められるようなこともありますが、常連組は“そういう無粋なことはするなよ”みたいな雰囲気。適度な距離感があるからこそ、長く通えているんだと思います」
確かに、必要以上に他人に踏み込まないことは、1つの“大人のたしなみ”かもしれない。Iさん(40代/女性)は苦い経験から、どんな場でも人と距離を置くクセがついているという。
「以前の自分はとにかくお節介なタイプ。友達同士の揉め事に首を突っ込んだり、頼まれてもいないのに後輩にアドバイスしたり、1人ぼっちで食事をしている同級生に一生懸命話しかけたり……それが正しいと信じて疑わなかったんです。しかしある時、友人の告白をサポートしようとして『いいからほっといて!』とブチギレられて反省し、人との距離感をグッと空けるようになりました。
今の会社には10年以上勤めていますが、業務以外のことで誰かに話しかけることはないですし、飲み会なども基本的にはパス。“やるべきことさえやれば文句はないでしょ”というスタンスです。友人関係でも、誘われて予定が無ければ行きますが、自分から誘うことはないですね。『断られたら』とか『迷惑じゃないかな』とか考えてしまって……」