企業概要
コーセル(6905)は、電源とノイズフィルタの専業メーカー。スイッチング電源などの直流安定化電源装置、ノイズフィルタを製造販売しています。
展開するのは、産業ロボットや半導体・液晶製造装置、工作機械や化学機械など、産業機械向けの電源装置とノイズフィルタです。中でも半導体の高速スイッチング作用を利用した「スイッチング電源」は同社の主力品であり、小型・軽量・高効率という特徴から、FA機器をはじめとするほとんどの電子機器に使用されています。
エレクトロニクス製品には、半導体デバイスをはじめとする数多くの電子部品が使われています。そして半導体デバイス(ICやトランジスタ、ダイオードなど)は直流電力(DC)が供給されてはじめて作動します。一方、発電所から送られてくる電力は交流電力(AC)であり、実際に使うためには(例えば家庭で洗濯機を使うには)直流電力(DC)に変換する必要があります。
電気機器に搭載されたICやモーターを正しく動作させるには、そのデバイス毎に最適化した直流を供給しなければなりません。その役割を担うのが、交流を安定した直流に変換する電源装置(AC/DCコンバーター)と、直流をデバイス毎に最適化した電圧に変換する電源装置(DC/DCコンバーター)です。
これら「電源」は電気を使うあらゆる機器に用いられています。その電源を扱うことから、同社は自らを“デンキ(電気)とデンキ(電機)をつなぐCOSEL”と呼んでいます。
そしてこの「電源」には、大量生産される民生品向けの「カスタム電源」と、汎用性が高く産業機械に広く使われる「標準電源」の2種類があります。
同社が得意とするのは、産業用に多く使われている「標準電源」。
標準電源は別名「カタログ電源」とも言われ、不特定多数のユーザーが様々な製品に使えるように設計されています。一台から購入が可能であるなど入手可能性の高さから、ほとんどの産業用機械が使っているといいます。
標準電源の市場規模は国内約500億円、世界市場は約2500億円と推定され、同社はこの標準電源市場で国内35%、世界7%のシェアを獲得しています。国内市場は、同社のTDKラムダ(非上場)の2社で70%近いシェアを占める寡占状態となっています。
市場を寡占していることから価格決定力を持つことが想像されますが、実際には、電源はメーカーのコストダウンの対象になりやすい部品とされます。利益率を維持するには独自の競争力が必要です。
注目ポイント
同社の競争力は高いアナログ回路技術です。
電源は、プリント基板上に回路を作ってそこへ部品を搭載してつくられますが、この時適切な回路パターンとその回路に最適な部品を選んで最適に配置できなければ、熱やノイズが発生してしまいます。アナログ回路設計は技術者の経験値に大きく左右される、まさにアナログな技術。同社によると電源を設計できるようになるには少なくとも20年はかかるそうで、電源を設計できる「アナログ技術者」はほとんど居ないとのこと。
汎用的な標準電源を社内に持つ意味はあまりなく、メーカーが自社で電源設計部隊を持つのは非効率で、同社のような電源メーカーに発注することになります。こうして寡占市場が形成されているというわけです。
同社ではこのアナログ回路技術を核に、新製品の拡販によって利益率を高めていこうとしています。もともと粗利益率30%を目途とした高利益経営を実行してきましたが、材料価格や人件費の上昇などコスト環境が悪化する中でこの水準を守るには、付加価値ある製品を投入する必要性がより高まってきたと言えます。
新製品開発は活発で、この10年間においては、年間12~22の新製品が開発されてきました。2023年の上半期中には9つの新製品が開発され、通年では18件の新規開発が計画されています。
開発中の新製品では、IPS(Intelligent Power System)=「知能を持つ電源システム」が注目されます。アナログ技術にデジタル技術を融合させた次世代の電源です。MCUを組み込むことで、設備機器の稼働状況や負荷状況の監視、故障予知と通報、また遠隔監視・遠隔操作などができる電源で、IoT時代に活躍が期待されます。
新製品開発を成長戦略に同社は「2026年5月期に売上高417億円以上、営業利益 62 億円以上、営業利益率15%以上」を目指します。営業利益率は足元2024年5月期上半期実績では19%に達しており、15%以上の維持継続が掲げられています。
新製品売上比率は2023年5月期の4.2%→2024年5月期上期に6.6%と高まってきました。2026年5月期には21%を目指しており、それに伴う利益率改善が期待できます。
【プロフィール】戸松信博(とまつ・のぶひろ):1973年生まれ。グローバルリンクアドバイザーズ代表。鋭い市場分析と自ら現地訪問を頻繁に繰り返す銘柄分析スタイルが口コミで広がり、メルマガ購読者数は3万人以上に達する。最新の注目銘柄、相場見通しはメルマガ「日本株通信」にて配信中。