「ジムとはこうあるべき」からの脱却
目的を達成するための手段はなんでもいい──。その思想のもと、「chocoZAP」が提供するサービスは多様化していった。運動習慣の入り口は、ネイルや脱毛でもいいじゃないか。それが瀬戸氏のスタンスだ。
多彩なサービスに対して、〈「chocoZAP」って結局なんなの?〉という戸惑いの声が寄せられることもある。しかし、たとえばコンビニでは飲食物も日用雑貨も衣服も書籍も売っているが、「ウリが何なのかわからないお店を利用できない」とは誰も言わない。むしろスーパーのほうが商品の価格は安いのに、大勢の人々がコンビニに足を運ぶ。瀬戸氏は、「『chocoZAP』は、自己投資におけるコンビニのようなものです」と語る。
「24時間365日空いていて便利だし、なんとなく楽しいから、ふらっと寄ってみたくなる。『chocoZAP』もそんな存在を目指しています。
もちろん月額2980円(税抜)という価格設定である以上、『マシンさえ用意すればセルフ形式で提供できるサービスかどうか』といった条件は設けています。ですが、“自己投資”というキーワードに当てはまるものであれば、とりあえずは試してみて、テストの結果お客様が本当に必要としてくれるのなら前向きに導入を検討します」
ジムの在り方に固執せず、「この店舗では美容ケアの需要が高い」となれば、ネイルや脱毛のマシンを増やしてトレーニングマシンは1台だけにする……という判断も十分ありえるという。
「お客様の意向を無視して、『ジムとはこうあるべき』という考えを押し通そうとしたところで自己満足でしかありません。お客様のニーズに我々が合わせていく、という順番であるべきだと思っています。『このトレーニングマシンにはこんな効果がありますが、いかがですか?』とは定期的に提案していきますが、最終的に選択するのはお客様です」
しかしライト層をターゲットにしている以上、「chocoZAP」には会員の“卒業”の可能性が付きまとう。運動習慣がある程度身についたところで、もう少し本格的なジムに目移りしてしまう会員もいるところだろう。ライト層から成長したミドル層向けの施策も視野に入れているのか? 瀬戸氏にそう尋ねると、「今はあまり考えていません」との答えが返ってきた。
「ミドル層というよりは本気で体を変えたい人向けのサービスではありますが、『RIZAP』が受け皿になっている部分はあります。2024年1月度の『RIZAP』新規入会者のうち、実に7.8%が『chocoZAP』経験者でした。『RIZAP』は数十万円の料金がかかる、それなりに入会のハードルが高いサービスです。となると、7.8%というのはなかなかの数字ですよね」
実業家として瀬戸氏が強く意識しているのは、運動習慣を持たない人々というブルーオーシャンだ。フィットネス経営情報誌『Fitness Business』編集部が昨年6月に公開したデータによると、2022年の日本におけるフィットネス市場規模は4503億円、フィットネス参加率は3.68%だという。もちろんコロナ禍による停滞はあっただろうが、そもそも国内のフィットネス市場はごく小さなものなのだ。
「3~4%の人々を企業同士で取り合ったところで仕方ありません。業界全体を盛り上げて、裾野をどんどん広げていったほうがいいんじゃないでしょうか」