しかも、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった集合住宅に併設された訪問介護事業者の利益率が高く、全体の収支差率を押し上げた部分もある。サ高住などではホームヘルパーが効率的に利用者宅を訪問できるため、コストが抑制しやすいのだ。
これに対して、過疎地域を抱える地方の事業者は利用者宅への移動距離が長く、時間をかけて1軒ずつ回らざるを得ない。自動車で移動するにはガソリン代などもかさみ、どうしても非効率な事業運営となる。
こうした点を勘案せず、収支差率7.8%だけを取り上げて「訪問介護事業者の経営は安定している」と一律に判断することには無理があるが、置かれた環境や組織の規模によって収支差率に大きく差がついていることを厚労省や財務省が知らないはずがない。
それを承知の上で引き下げた背景には、「異次元の少子化対策」の財源捻出のために社会保障費の一層の抑制を求められていたことがあった。削減の理屈を立てやすいところを狙い撃ちしたということだろう。
厚労省が主張する「処遇改善策」のまやかし
反発を予想して、厚労省は基本報酬を下げる代わりに訪問介護に対する処遇改善加算率を最大24.5%と他サービスより手厚くするという激変緩和策を用意した。「加算分を取れば増収にすることができる」との説明だ。厚労省幹部は「基本報酬だけでなく加算の拡充を含めたトータルで報酬改定を評価してほしい」とアピールしている。
だが、これにはまやかしがある。処遇改善として加算されても基本報酬が下がれば、効果はかなり相殺される。しかも、処遇改善加算とはあくまで職場環境の改善が目的である。昨今は諸物価高騰によって経費が増大し経営は一段と厳しくなっているが、事業者の運営経費にストレートに回せるわけではない。
厚労省は中山間地域などの事業者向けの加算も新設したが、短時間のサービスを積み重ねている事業者にとっては基本報酬が下がる影響のほうが大きい。人的余力のない事業者などには「上位の加算要件」をクリアするハードルが高いという悩みもある。報酬改定によって訪問介護事業者の倒産・休廃業が広がることが懸念される。
他方、訪問介護の基本報酬引き下げの影響は、事業者の経営問題にとどまらない。それどころか、日本社会の屋台骨を揺るがす可能性さえある。