老後の終の棲家を考えるときの選択肢のひとつが、老人ホームへの入居だ。介護問題に詳しいファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏はこう言う。
「老人ホームへの入居は24時間介護で緊急時も専門家が素早く対応してくれる安心感があります。施設でほかの入居者と触れ合う機会が増えることも、孤独になりがちな高齢者にはメリットと言えるでしょう」(以下「 」内同)
一方で、施設や職員との相性が合わず、制約の多い集団生活を強いられることにストレスを感じることもあり得る。さらに大きな問題となるのが費用面のリスクだ。
「昨今の物価高の影響は施設も例外ではありません。民間調査会社が老人ホームを運営する法人410社を対象に調べたところ、昨年、月利用料を値上げした法人は全体の23%あり、管理費と食費を合わせた平均は年間12万円アップしました」
今年も値上げラッシュが続くことから、今後も負担の増大が懸念される。「最悪の場合、当初の計画より早く資金が底をつき、支払いができず強制的に退去を迫られるケースも考えられる」という。
ホームに比べて在宅で「独居」を選ぶ場合は費用が抑えられるが、もし認知症を発症した場合は事情が変わってくる。
「認知症になると家族による介護が必要になります。医療費や介護費だけでなく、見守りサービスの費用など家族に介護保険適用外の負担が増える可能性がある。年間の在宅介護費用が200万円を超えるケースもあるようです」
そうなると、親の介護のために子供が「介護離職」を迫られるリスクも考慮しなければならない。
在宅と施設のどちらを選ぶかは本人と家族の意向次第だが、ホーム選びに際しては「親と子で施設に対する希望や自身のニーズを整理し、どこまでお金をかけられるかをきちんと検討することが重要」という。十分に検討する時間や気持ちの余裕がないと、慌てて入居し失敗することになる。まずは早めの対応が肝心だ。
※週刊ポスト2023年9月1日号