2024年の中学受験で例年には見られない“異変”があった。首都圏の最難関校である筑波大学附属駒場(筑駒)の「繰り上げ合格」が例年に比べて多かったと見られているのだ。なぜこうした現象が起こっているのか。ノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【全3回の第1回】
* * *
2024年の一都三県の中学受験は予想に反して、受験者数が微減にとどまり、5万2400人となり、受験率は18.12%と過去最高を記録した(首都圏模試センター調べ)。少子化が進んでも、ひとりあたりにかける教育費は増えていく中で、中学受験熱はそうは下がらないようだ。
その中で、ひとつ目立つトピックがあった。関東の最難関男子校、筑波大学附属駒場(筑駒)で繰り上げ合格者が例年になく多かったことだ。
筑駒はどのぐらい難関か。四谷大塚の偏差値で見ると、開成71、麻布68、渋谷教育学園渋谷68(2月2日受験・男子)、聖光学院70、渋谷教育学園幕張69(2月2日受験・男子)に対して、筑駒は73。『筑駒の研究』(河出新書)の著者で教育ジャーナリストの小林哲夫さんはいう。
「筑駒は定員が少ないので合格者も少ない。塾も合格者はそうは多く出せないので、筑駒の合格者数を前面に出していませんが、関東では圧倒的な進学実績を誇る最難関校です」
実際、2023年は1学年約120人中、73名が現役で東大に合格をしている。「多い年だと7割近く、少ないときでも4割以上が現役で東大に合格します」(小林さん)。加えて国立中学なので学費が安い。そのため、筑駒に合格して辞退する生徒は毎年「若干名」である。
ところがだ、今年はその筑駒の辞退者が多めに出たのだ。
筑駒の合格者の大半はSAPIXの生徒が占めている。2月5日の合格発表直後の合格者数は79名であったが、これが現在は98名になっている。つまり、SAPIXだけで19名が繰り上げ合格している。他塾でも数人の追加合格が出ているから約20人ほどが繰り上げ合格になっている。
この繰り上げ合格者が筑駒に進学するために、他の学校を辞退する。そうするとその学校も繰り上げ合格を出すことになり、2月後半になってから、御三家などの難関校の追加合格者が出てきている。その追加合格者が進学予定だった中堅上位校を辞退するから、中堅上位校が繰り上げ合格を出す。今度はその学校の繰り上げ合格者が、進学が決まっていた中堅校を辞退するから、その学校も追加合格を出す……という「玉突き」状態になっている。