「遠くのトップ校より近くの学校」を選ぶ傾向
コロナ禍の中で、各家庭がなるべく近くの学校に通わせようという傾向が強まっているといわれるが、実は、この「遠くのトップ校より近くの学校」という傾向は今に始まったことではない。『筑駒の研究』(河出新書)の著者で教育ジャーナリストの小林哲夫さんが語る。
「桐蔭学園はかつては神奈川の最難関校として君臨し、県全域から生徒たちが時間をかけて通っていました。しかし、神奈川の各地域に逗子開成などの進学校が台頭してくると、『桐蔭は遠いから、地元の進学校でいい』と考える生徒や保護者も増えていったんです。それと同じように筑駒に合格しても、もっと近くに納得して通える学校があれば、そちらに進学する生徒はいるでしょう」
実際、こんな話も聞いた。数年前に、筑駒を辞退した生徒の保護者はいう。
「力試しに筑駒を受けただけで、まさか合格すると思っていませんでした。雲の上の学校なので文化祭にも行っていません。一方、第1志望の学校の文化祭には、3年間通って、在校生に『合格したらうちの部に入れよ!』と声をかけてもらっていました。愛着がある学校なのでそちらを選んだまでです。親としては学費が安いし、超名門校だし筑駒に通ってほしいという思いもありましたが、距離が少し遠いのはネックでした。また、本人も『渋谷駅で人混みをかき分けながらの乗り換えは無理だ』ともいってました」
つまり、今回の筑駒の繰り上げ合格が増えたことの理由は、通学区域が広がって、遠方からの受験者が増えたことで、同時に「記念受験するだけで実際には入学するつもりがない」ケースも増加したというわけだろう。
ただ、そこには、関東特有の事情や価値観なども見え隠れする。次回は関西の状況とも比較しつつ、関東の中学受験の最新事情について言及をしよう。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)では小説『ボリュゾっていうな!~ギャルママが挑む“知識ゼロ”からの中学受験ノベル~』を連載。