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首都圏トップ校・筑駒で辞退者が増加 今でも灘が“絶対的な価値”を持つ関西では起こり得ない事態がなぜ起こる

関東と関西で、中学受験の傾向はどう異なっているか(写真:イメージマート)

関東と関西で、中学受験の傾向はどう異なっているか(写真:イメージマート)

 2024年の中学受験で、受験生や塾関係者に衝撃が走った。首都圏の最難関校である筑波大学附属駒場(筑駒)で、繰り上げ合格が例年に比べて多かったと見られているのだ。この現象は、筑駒だけに起きたことなのか、あるいは他の地域にも見られるものなのか。ノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【全3回の第3回。第1回から読む

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 2024年の中学入試では、筑波大学附属駒場中学の繰り上げが例年より多く出たことが話題になった。中学受験塾SAPIXの筑駒合格実績を見ると、2月5日の合格発表直後は79名であった合格者数が、後に98名に増えている。SAPIXだけでも19名が繰り上げ合格しているわけだ。

 その背景には通学区域(この地域在住の生徒のみ通学できるという規定がある)が広がった影響が考えられる。新たに通学区域に加わった、埼玉や千葉、神奈川方面の受験生が力試しに受験して合格したが、長距離通学を敬遠して辞退したケースも想定される。

 しかし、果たして、辞退者が出たのは通学時間という物理的な理由だけだろうか。そこには“関東の中学受験”ならではの事情や価値観も垣間見られるのではないか。

 2022年に関西の中学受験事情を取材した時に、各塾で「関西で灘を辞退するのは力試しに受験した東京や名古屋の受験生だけ。関西圏に住んでいればまず灘に進学をする」と聞かされた。

 関西に展開する有名塾、馬渕教室の奈良県の学園前校を取材した時のことだ。灘で使用されている、椅子と一体になった机と同じ形のものを使用し、灘中を目指す選抜クラスの生徒たちが切磋琢磨していた。学園前駅から灘中学の最寄り駅、魚崎駅までは1時間ほどかかるので、自宅から灘までは最低でも片道1時間半はかかるだろう。往復で3時間の通学を6年間も続けることになる。その長時間通学の覚悟を持って、学園前の塾の生徒たちは灘を目指しているわけだ。今でも、関西では最難関校・灘に通うことは絶対的な価値に見える。

 関西と関東で、中学受験をする家庭の事情は大きな違いがあるようだ。関西から関東に進出した塾の幹部がいう。

「東京に来て驚いたのは、共働き家庭がほとんどだということです。関西だとお母様たちは専業主婦かパートタイマーです。塾代を稼ぐためにちょっとパートに出るという働き方で、あくまでも家庭が中心です。一方で、東京だとお母様たちが正社員や専門職でバリバリ働いて、お父様より多く稼いでいることもしばしばあります。なので、お父様たちが子どもの塾の送り迎えをし、『うちは料理や洗濯などの家事は妻が担当、子どもの勉強を見るのは僕という、分業制です』などとおっしゃることもあります」

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