関東では「学力が高いから医学部に行く」という発想は過去のものに
なぜ、それだけ女性が働けるかというと、仕事の選択肢が多いからだ。
一昔前までは、夫の海外駐在についていった妻の多くは、帰国後も専業主婦を続けた。そのため私立校では、帰国子女ママの専業主婦と働きママでは、立場の違いが際立っていたという。しかし、今は夫の駐在についていくために一度、仕事を辞めても、帰国後、再就職のチャンスが大きく広がっている。取材で接した母親も夫の駐在に子どもと共についていったが、帰国後、派遣社員で再就職し、1年後には正社員になって、子どもの家庭教師代を自分の収入から払っている。それだけ関東には仕事の選択肢があるのだ。
関西を含む地方では、相対的に仕事の選択肢が少ない。塾の取材でも「関西には大手企業の本社が少ないから、学力上位層は医学部に行くしか選択肢がない」という話を聞いた。一方、関東の難関校や医学部対策塾を取材していると、「学力が高いから医学部に行く」という発想は過去のものになり、幅広い選択肢の中から医師になることを選んだ生徒たちが医学部を目指すようになっている。
関東と比べると、関西は今でも学力最上位層は医学部を目指すことが多い。そして、難関医学部の合格実績が圧倒的に高いのが灘であるから、そこに進学することは絶対的な価値があるのだろう。
憧れの対象は「関西では灘」「関東では選択肢多数」
『筑駒の研究』(河出新書)の著者で、教育ジャーナリストの小林哲夫さんはいう。
「関西は中学受験で『なにがなんでも入れたい』という憧憬の対象になる学校といえば灘になります。一方、関東だと塾はいろいろな私立中学への対策に力を入れるので、それぞれの学校に、どうしても通いたいという願う生徒が出てきます」
早稲田アカデミーは早慶の附属に強く、四谷大塚は開成への合格実績を伸ばしつつある。そうやって、塾で1年間、第1志望の学校の対策講座を受けていたら、その学校への憧れが強くなるだろう。
実際、ある生徒は渋幕(渋谷教育学園幕張)を目指して塾に入って、「開成に受かるぐらいじゃないと渋幕にも合格しないよ」といわれ、開成も受験して合格。結局、初志貫徹で渋幕に進学した。プールや芝生のグランドなど運動設備の充実がスポーツ少年の心には刺さっていたようだだ。
関東では、学校選びでも選択肢が多い。最難関の名門校、筑駒で繰り上げ合格が増えたことも不思議ではないといえよう。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)では小説『ボリュゾっていうな!~ギャルママが挑む“知識ゼロ”からの中学受験ノベル~』を連載。