元日から震度7の地震に襲われた能登半島。少しずつ復興への歩みが進められ、3月16日からは観光業を支援する「北陸応援割」が開始された。しかし、倒壊した家屋の処理にあたっては、一部の住民や役所の職員が頭を悩ませている問題がある。崩れてしまった住居などの「相続登記」がなされていないと、解体の手続きがスムーズに進められなくなるというのである。
住居が全壊、もしくは半壊してしまった被災地の住民が、役所の相談窓口で「家を解体したい」という話をすると、職員からは公費で被災建築物を処理できる「公費解体」という制度を案内される。ただ、そこで職員からはこう尋ねられることになる。
「登記上の名義人はどなたですか?」
そこで相談者の住民が「亡くなった祖父です」といった答えをして、役所が解体に手を出せなくなるなどの事態が発生しているのだ。
実は、こうした「亡くなった人名義の不動産」は能登半島に限らず全国に多く存在する。これまで、所有者が亡くなって不動産を相続した人に対して、登記上の名義変更の手続きをする義務が課されていなかったからだ。何らかのかたちで固定資産税等を払いつつ、相続登記を行なっていないケースが全国に多数ある。今年4月以降に3年以内の相続登記が義務化されるが、そのタイミングよりも前に能登半島を地震が襲ったわけだ。
公費解体をするうえでは登記上の所有者の確認が必要だが、相続登記が未了だとその確認が取れない。こうした問題への対応に現場では苦慮しているという。石川県内の市役所関係者はこう言う。
「登記から所有者が確認できない場合、代替措置の申請書を提出してもらうことになるのですが、提出には印鑑が必要です。職員は家が壊れていることが分かりながらも、『印鑑はお持ちですか。持ってきてもらえませんか?』と聞かなければならない。当然、住民からは『家が潰れてぐちゃぐちゃなのに、印鑑なんて探せるわけないだろ!』といった怒りをぶつけられる。職員側も心苦しい思いをしています」