【改悪4】「第3号被保険者」を“消滅”させる
パートの厚生年金加入もさらに拡大される。狙いはサラリーマンの夫に扶養され、パートで働きながら夫が厚生年金の保険料を負担しているため、自分で保険料を払わなくても65歳になれば国民年金の受給資格が得られる「第3号被保険者」を“消滅”させることだ。
今年10月から週20時間以上、月給8万8000円以上のパート(短時間労働者)の厚生年金加入義務化の対象が従業員51人以上の企業に拡大する。
厚労省はさらに、厚生年金強制加入の収入基準を月額5万8000円以上に拡大し、企業規模にかかわらず時短労働者の加入を義務化することを検討している。
「厚生年金に加入すれば勤務時間を気にせず働けるうえ、年金額も増える」
そう囁いて、第3号被保険者のパート妻を厚生年金に加入させて保険料を徴収しようとしているのだ。
だが、この制度改正には落とし穴がある。
これまで夫の第3号被保険者に残るために勤務時間を20時間未満、月給8万8000円未満に抑えていた50代のパート妻が、厚生年金に加入してフルタイムで働き、月給16万円にアップしたとしよう。
給料から天引きされる厚生年金と健康保険、介護保険などの社会保険料は月額約2万4000円。10年間働けば保険料の総額は約288万円になる。それに対して厚生年金の受給額は、第3号被保険者にとどまって社会保険料負担なしで国民年金を受給する時より年間ざっと11万円ほど多くなる。
支払う社会保険料を取り戻すには、25年近くかかる。65歳受給開始なら90歳前後だ。
サラリーマンの夫の扶養家族であれば負担する必要がなかった健康保険料などを考慮すると、第3号被保険者のパート妻の厚生年金加入は年金受給額の面でも決して得をしないことがわかる。
「パートで働く第3号被保険者は子供が手を離れた40代後半から50代の層が中心です。しかし、厚生年金に加入してバリバリ働き、自分の年金を増やそうと考えるのであれば、40歳前から25年くらい加入しなければ十分な年金額にはならない。50代前後の第3号のパート妻を強制加入させれば支払う年金額はそれほど増えずに、保険料だけはキッチリ取ることができるという考えでしょう」(蒲島氏)
だからこそ、政府はパートの厚生年金強制加入拡大に躍起になるのだ。
政府は賃上げラッシュを“隠れ蓑”に、「今が負担増を強いるチャンスだ」と国民生活をさらに苦しめる年金大改悪を進めている。
※週刊ポスト2024年4月5日号