田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国がリードする「空飛ぶクルマ」実用化競争 国家レベルで「低空経済」発展を後押し、開発で先行していた日米欧が後れを取る可能性も

「盛世龍」の実際の飛行の様子(Getty Images)

「盛世龍」の実際の飛行の様子(Getty Images)

「低空経済」の質の高い生産力として、eVTOL、ドローンなどを指定

 世界では、欧米企業が積極的に開発を行っており、着手し始めたのは中国よりも早い。日本においても、SkyDrive、teTra aviation、ホンダ、トヨタ自動車をはじめ、大手企業からベンチャー企業まで、たくさんの企業がこの新たな市場に参入している。グローバルで開発競争が進んでいるわけだが、中国企業には他国企業と比べて有利な点がいくつかある。

 1つ目は、国家が全面的にこの業界の発展を支持している点だ。2021年には「低空経済」が国家総合立体交通網計画綱要に組み込まれた。地上から1kmないし3km以内の低空領域を有効に活用しようという発想で、eVTOL、ドローンなどの開発促進が国家の重要方針となっている。

 2023年10月には工信部、科技部、財政部、民航局が連名で「緑色航空製造業発展綱要(2023-2035年)」を発表、2025年にはeVTOLの試験運行を実現させる方針が示されている。2023年12月には国家空域基礎分類方法において、低空域が非管制空域に区分され、eVTOLの商業化に向けた大きな障害が取り除かれている。同じく12月には深セン市において「低空経済の高い質の発展を支持するための若干の措置」が発表されており、eVTOLなど低空経済を支える機器の産業化を加速させるために、研究開発、製造、販売などに係わる企業に対して補助金を支給するとしている。

 今年の全人代においては「低空経済」という文言が初めて政府活動報告に記載された。中国は経済成長の方式をこれまでのようなインフラ開発、不動産開発などがけん引する形から、イノベーションを加速させ、新たな質の高い生産力がけん引する形に変えようとしているが、その新たな質の高い生産力の一つとして、eVTOL、ドローンなどが指定されている。企業サイドからみれば、銀行借入、ベンチャーキャピタル、エンジェル投資家からの資金調達、上場などの面、つまり資金調達の面から手厚いサポートが得られるといった利点があり、さらに、共産党からの強力な支持がある以上、既得権益者からの邪魔立て、硬直的な規制に関する遵守の強要といった障害を避けて通ることができる。自由主義諸国の企業にはない優位性がある。

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