先行する欧米や中国に対して、電気自動車(EV)シフト転換で後れを取る日本の自動車産業。世界に誇る“基幹産業”は、衰退を避けられないのか、それとも2024年に光明は見えてくるのか―─長年にわたって自動車業界を取材してきたジャーナリストの井上久男氏がレポートする。【前後編の前編。後編を読む】
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東南アジアは日本企業が数多く進出し、日本経済の生命線の一つだ。日本の自動車メーカーも多くの生産拠点を持ち、日本車のシェアが9割近い“金城湯池”である。中心国の一つ、タイにおける2022年のメーカー別販売順位は1位トヨタ自動車(シェア33.9%)、2位いすゞ自動車(同25%)、3位ホンダ(同9.8%)で、この3社だけで7割近いシェアを持つ。
そのタイで今、異変が起きている。2023年10月の新車販売でEVが前年同月比で6.3倍の7715台となり、新車に占める比率が一気に15%を超えたのだ。1~10月の累計販売台数でも前期比8.2倍となっている。
タイ政府からの補助金もEV普及の追い風となっているが、注目すべきは市場を牽引するのが「中国勢」だという点だ。EVで5割のシェアを持つBYD(比亜迪)を筆頭に、中国企業4社で9割のシェアを有する。完全に「日中逆転」が起こり始めている。タイ政府と2023年秋に意見交換した日本企業の幹部が明かす。
「BYDはタイの中央官庁すべてに4台ずつEVを寄付し、9月に就任したセター(・タビシン)首相にも近づいている。2026年にバンコクで開かれる世界銀行・IMFの総会で使う公用車数百台を無償で提供したいとタイ財務省に申し出ているとの情報もある」
2023年上半期、自動車輸出で中国が日本を追い抜き、初の世界1位となったのは、BYDなどが東南アジアや欧州へEVの輸出を増やしたからだ。BYDは2024年からはタイに年間15万台の生産能力がある新工場を建設し、現地生産を始める計画だという。