【魚介類】海産物の水揚げエリアが激変。冷水を好む北方系の海の幸がピンチ
海水温上昇と暖流の北上で、いま日本の海の季節感が一変している。
「日本の海水温上昇率は世界平均0.6℃に対し、日本海は1.87℃と高く、海中では、南方系の魚が北でとれる異変が続いています」
と水研機構水産資源研究所(水研機構=正式名称「国立研究開発法人 水産研究・教育機構」。水産研究・教育機構は、水産分野の研究開発と人材育成を行うわが国唯一の国の機関)の木所英昭さんは語る。
たとえば、トラフグは山口県から千葉県や福島県へ。伊勢海老はいま千葉県が水揚げトップクラス。佐賀・呼子で有名な剣先イカは宮城県で水揚げ急増中だ。
北海道・函館でも南方系のブリがスルメイカの水揚げを抜き(別掲グラフ参照)、地元はブリのブランド化に前向きだ。函館の隣の森町で「大衆割烹やなぎ」を営む店主はこう話す。
「この辺のホッケ漁の最盛期は10月頃なのに、去年は12月。店を41年やってて初めて、魚の旬に2~3か月のズレを感じます。鹿部沖で伊勢海老がとれて驚いた一方、サケ漁など北方系の魚は近頃さっぱり」
これは北の海の異変を嘆く地元の生の声だ。
「海水温1℃の上昇は気温上昇5℃以上に匹敵し、冷水を好むエゾバフンウニやホタテ貝は海水温23℃以上の高水温では病気になりやすく生育しにくい。
また、CO2を削減しないと海洋酸性化が進み、貝やウニ、サンゴなどに深刻な影響を及ぼす懸念があるのです」
と話すのは、東大・大気海洋研究所大槌沿岸センター教授の藤井賢彦さんだ。
函館水産試験場の板谷和彦さんは、温暖化時代の養殖業の適応策に注目する。「昆布やホタテ貝の養殖は水深が浅いため海水温上昇が影響してきます。そこで昆布養殖では水深・苗作り、時期の工夫で収量を落とさないようにする対策と技術が特に重要です」
【プロフィール】
海洋学者・藤井賢彦さん/東京大学大気海洋研究所教授。大槌沿岸センターで地球温暖化・海洋酸性化等が沿岸生態系に及ぼす影響についての研究を行っている。
取材・文/北武司 イラスト・作図/勝山英幸
※女性セブン2024年4月11日