中学受験の偏差値50は全小学生の上位10%
ただ、個別指導塾に月に6万円以上払って成績が上がらないのには不満があった。続けようかとどうしようと悩んでいた時に、スマートフォンで息子が通う個別指導塾の卒業生の合格体験記を読んでいて愕然とした。
あれだけ授業料が高いのだから、その個別指導塾に通っている子たちは御三家や難関校を目指すのだろうと思ったが、合格体験記には偏差値50前後の中堅校に合格した生徒たちのコメントが並んでいた。
「中学受験は全小学生のうち上位20%の戦いといわれます。その20%の中の偏差値50はかなり勉強ができる子たちなんです。偏差値50は、全小学生の中の上位10%ぐらいの位置のはず。そこに届くのは相当大変なことで、そのために高い個別指導に通わせている家庭も多いんだなって」
スマートフォンの画面がにじんで見える。自分が涙ぐんでいることに気づく。タオルハンカチで目を押さえ、それから上を向くと、電車の液晶広告が目に入る。どこかの森を映していた。光の差さない森の緑は深い色であった。昔、家族で出かけた時にあんな森があったなと思い出す。息子は土の間で動く虫を見つけては喜んでいた。好奇心旺盛な子だった。
「私が専業主婦でちゃんと子どもの受験に専念していたらお金もかけずに済んで、子どもはもっと上のクラスに入れて、麻布を狙えたのかなと思えてきてしまって」
しかし、頭を横に振って、その考えを否定した。
「同じ小学校で中学受験をする子のママに専業主婦はほぼいないということです。医者や経営者の妻といったお金持ちのセレブママたちもなにかしらの仕事をしています。事務アシスタントとか、クリニックの受付とか。自分で子どもの勉強を見るのではなくて、外注して自分は教育費を稼ぐっていう文化なんです」
都心へのアクセスがいいこの街にいたら、いくらでも仕事はあるし、高学年にもなると子どもは親のいうことを聞かなくなるからプロに任せた方がいいという判断もありそうだ。
「物価も不動産価格も比較的安い郊外の街なら、専業主婦が日々の生活を節約しながら、子どもの勉強に寄りそって、個別指導も家庭教師も使わずに中学受験対策ができるんでしょう。でも、ここはそういう街じゃないんです」
それに気づくと開きなおることができたという。
「分不相応なところに住んでいるんだから仕方ないんです。物価高なんでランチ会も高騰していますよ。この間行ったイタリアンのランチも、レタスだらけのサラダ、パスタ、言い訳程度のデザートにドリンクバーで3000円以上しました」