日本国内で最先端の半導体製造を目指す株式会社ラピダスが設立され、政府が全力を挙げて支援を進める。エヌビディアとTSMCが二強として世界市場に君臨する「半導体戦争」に日本はどう立ち向かうのか。半導体ビジネスに早くから着目し、世界と日本の最新潮流を読み解いてきた、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。
* * *
経済産業省は4月2日、ラピダスに5900億円の追加支援をすると発表、支援総額は1兆円近い規模になるという。また、TSMC熊本第1・第2工場への支援額は、合計1.2兆円に上る。両社合わせて2兆円を超える税金投入は、果たして国がやるべきことなのか?
同省は2021年に『半導体・デジタル産業戦略』をまとめ、国が関与し始めた。昨年4月に公表した同戦略改定案では半導体の売上高を「2030年に15兆円にする」と掲げ、拠点整備に今後4兆円の予算を投じる方針だが、目標の達成は至難の業だろう。
世界の半導体売上高に占める日本のシェアは1981年に70%だったが、1986年の第1次日米半導体協定以降は右肩下がりを続け、2019年には同10%まで落ち込んだ。半導体の産業政策で30年以上も“眠っていた”経産省に、今さらまともな舵取りができるとは思えない。
国策プロジェクトのラピダスは北海道工場で回線幅が2nm(ナノメートル。1mの10億分の1)の次世代ロジック半導体の量産を目指すが、現在、日本企業が国内工場で作れるのは40nmにとどまる。日本にとって2nmは未踏の領域で、計画通りに進むかどうか分からない。経験の積み重ねがすべての半導体製造で回路線幅を一気に20分の1にするのは無理だ。高尾山で登山訓練してエべレストに挑むようなものである。
仮にラピダスが目標である2027年に2nmの量産ができたとしても、その時に「誰が買ってくれるのか」という疑問もある。半導体の世界で圧倒的強者の台湾TSMC、韓国サムスン電子は2025年に2nmの生産を予定しており、ラピダスは両社の後塵を拝することになる。
さらにラピダスの2nm製造技術は米IBMとの「戦略的パートナーシップ」により提供される。つまり、開発されるのは“日の丸半導体”ではなく、IBMにライセンス料を払って共同開発する人任せの国策プロジェクトだ。