日本で最も半導体バブルに沸く熊本──。キャベツ畑が広がるエリアにそびえ立つ世界最大の半導体メーカー「TSMC(台湾積体電路製造)」の巨大工場は、地域に何をもたらしたのか。中国在住経験のあるジャーナリストの西谷格氏が現地をリポートする。
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熊本市東端に位置する市営団地の一角に、一際新しい3階建ての瀟洒な低層マンションが並んでいる。今年2月に稼働を開始したTSMC熊本工場の従業員が住む4棟の社宅だ。日中、出入りしているのは30代の身綺麗な女性や小さな子供たち。一見、よくある郊外の日常風景だが、彼ら台湾人の経済力はケタ違いである。4月から長男が小学生になるという30代の住人女性に中国語で話を聞いた。
「昨夏、夫とともに本社のある新竹(シンジュー)から来ました。日本は台湾より物価が安いのでとても暮らしやすいです。携帯の電波が少々弱いことと病院の待ち時間が長いこと以外、困ることはありません」
管理職という夫の年収についても、濁しながら教えてくれた。
「500万台湾ドル(約2350万円)ぐらいかな。日本での駐在を打診された際、それまでの2倍近い給与を提示されました。台湾ドルと日本円の両方で受け取っていて、比率は自由に選べます。今は円安なので、7:3の比率で台湾ドルを多めに受け取っています」
彼女の雰囲気からは経済的余裕が感じられる。
「長男は今月開校した『九州ルーテル学院インターナショナル小学部』に通わせることにしました。熊本は空気が美味しいし広々しているので、子育ての環境としてはとても良いです。マンションが驚くほど安いので、購入を検討しています」
同校は入学金30万円、学費は年間100万円を超える私立校で、TSMCの進出で台湾から来た駐在員の子供を受け入れようと今年度、開校した。主に英語で授業を行なうそうで、世界レベルの人材の子弟が通うには申し分なさそうだ。