厚生労働省が5年に一度の公的年金の財政検証で議論の対象とするメニューを明らかにしたことが話題となっている。国民年金の保険料納付期間を5年延長し、約100万円の負担増となることに批判が集まっているが、それ以外に注目すべき点として「在職老齢年金の廃止、縮小」が俎上に載せられているところがあるだろう。
4月16日に発表されたのは、財政検証の議論の土台となる5つの項目だ。注目が集まっているのは、基礎年金(国民年金)の保険料納付期間を現行の40年間(20~60歳)から45年間(20~65歳)へ延長するという案だ。現在の保険料は月額約1.7万円で、保険料を納付したぶん将来の受給額は増えるものの、5年延長で約100万円の負担増となる。
岸田文雄・首相は衆院本会議でこの負担増をめぐる試算について追及を受けると、「制度改正の内容は何ら決まっていない」「(試算は)私の意思が反映されているものでもありません」と逃げを打ったが、具体化すればさらなる反発は必至だろう。
現行制度は「働くほど年金が減る仕組み」
基礎年金の納付期間5年延長については、以前から検証の俎上に載る見通しが報じられていたが、今回の厚労省の発表で新たに加わっていたのが、「在職老齢年金の見直し」だ。現行制度では賃金と年金(厚生年金の報酬比例部分)の合計が月額50万円を超えると、超えた分の半額の年金が支給停止となる。この制度の廃止、緩和した場合の効果が試算されるという。
現在は年金受給者が働くほどに年金がカットされるという仕組みになっているわけだが、それが大きく変わる可能性があるのだ。“年金博士”としてお馴染みの社会保険労務士・北村庄吾氏が解説する。
「現行制度では、働くと年金が減って損だから、年金が減らない範囲で働くという人が少なくありません。たくさん働くと年金が減るという話だから、働く意欲がわかないのは当然です。労働力不足のなかでそうした就労調整を解消させたいし、保険料に見合った給付を得るという原則にも反するので、見直しが議論されるということでしょう。
これは年金と給与の調整の話なので、制度の廃止や減額基準の変更があれば、60代以降の働き方が変わってくるでしょう。具体的には、年金の受給権発生後も70歳まで厚生年金に加入しながら働く人が増える可能性があります。そのために、すでに2022年から65歳以降に厚生年金に加入しながら働くと1年ごとに年金が上乗せされるという改正が行なわれています」