介護事業は、介護保険制度のもとに運営されている。介護サービスの利用料金は、介護を受ける人の要介護度によって上限が決められている。事業所の規模によって、受け入れ人数にも制限があるため、運営側の収入にも上限があると言える。
「“他の店より美味しい牛丼だから単価を上げます”とか“値下げするけどたくさん売って売上をアップします”といったことが介護保険サービスの仕組みではやりにくい。だから、スタッフの時給を上げたくても限界があるんです。そのため労働力は“山”に取られてばっかりで……」(同前)
倶知安町社会福祉協議会ヘルパーステーションの管理者・斎藤俊子氏は次のように語る。
「倶知安町にはもともと、3つの訪問介護事業所がありました。そのひとつが、去年の12月に閉所したわけです。パートを含めてスタッフ8人くらいの事業所だったのですが、困るのはやっぱり利用者の方々なんですよね。残った2つの事業所に振り分けてケアを続けることになったのですが、それまで週に4回利用していたところを1回に減らさなくてはならないといった弊害が出ています」
国が訪問介護の報酬を「引き下げ」している
こうした現状があるにもかかわらず、厚生労働省は昨年11月、訪問介護事業所の基本報酬の「引き下げ」の方針を発表した。22種類ある介護関連のサービスにおいて税引前の収支差率の平均はプラス2.4%だが、訪問介護だけはプラス7.8%と高水準だったことが理由だと厚労省は説明している。しかし、この動きに専門家は疑問を呈す。全国介護事業者連盟理事長の斉藤正行氏はこう話す。
「訪問介護事業所の収益は土地柄によって大きく違ってきます。人口が密集している都市部では、利用者が近隣に固まっているためにスタッフが通いやすい。サービス付き高齢者住宅や、有料老人ホームの敷地内にある訪問介護事業所であれば、数分で利用者のもとに行くことも可能です。
ところが、僻地ではそういうわけにはいかない。訪問先まで数十分かかるといったケースばかりになる。もちろん、移動時間にサービス料金は発生しません。顧客を増やしたくても、物理的に不可能なのです。厚労省の調査では、そうしたところが抜け落ちているのではないでしょうか」