大規模言語モデル(LLM)は、Microsoftの出資先であるOpenAIが開発したChatGPTをはじめ、Googleの「Bard」、Metaの「Llama」など、米国を代表する大手IT企業が市場を席巻していると思うかもしれない。しかし、中国にも、米国に対抗できるだけの技術を持った企業が出現しつつあるようだ。
画像認識や映像解析システムで中国最大手のセンスタイム(商湯科技)は4月23日、技術交流イベントを開催したが、そこで最新の大規模モデルである「日日新5.0」とChatGPT-4 Turbo、Llama3との性能比較テスト(総合試験、言語・知識、常識推理、数学・科学、コーディング)の結果を発表した。それによると、合計11あるテストの内、ChatGPT-4 Turboに対しては9勝2敗、Llama3に対しては10勝1敗であった。
一般にLLMには、データ量、計算量、パラメーター数をそれぞれ大規模化することでその性能を高めることができる。プロジェクトをリードする優秀な研究者が不可欠であることは言うまでもないが、同時に巨額な設備投資資金が必要である。AI業界は現段階ではまだ揺籃期だが将来、巨大市場に成長するとの見通し、技術サービスの性質から独占あるいは寡占市場になるとの見通しから、熾烈な開発競争が繰り広げられている。長く続くであろう赤字経営に耐えられるだけの資金力が必要だ。
現在この業界をリードするのは大手IT企業、あるいは彼らから資金支援を受ける極めて高い技術力を持つベンチャー企業に限られるのはそうした理由からであるが、こうした体力に任せたパワープレーの世界においても同社を含め、中国企業が追従できている点に注目すべきである。
米国からの抑圧、空売りファンドの標的、創業者の病死
センスタイムについてだが、創業者の一人であり、当時香港中文大学情報工学科の教授であった湯暁鴎氏が2014年、世界で初めて人間の目の認識能力を超える画像認識アルゴリズムを開発したと発表、同年その技術をコアとして同社は設立された。
スタートアップ期からアリババグループやソフトバンクグループなどの出資を受けたが、2019年10月には米国政府から禁輸措置、2021年12月には米国人による証券投資の禁止措置を受ける。こうした逆風を跳ね返し2021年12月、香港上場を果たしている。
米国からの抑圧も厳しいが2023年11月、空売りファンドのグリズリー・リサーチから売上を水増ししていることや、資金繰りの悪さなどを理由に売りの標的とされた(会社側は不正会計疑惑を否定)。湯暁鴎氏が2023年12月に病死したことも、投資家に動揺を与えた。
株価をみると、最高値は上場直後の2022年1月4日場中で付けた9.7香港ドル。上場にあたり、調達した56億5500万香港ドル(735億円、当時の為替レートを1香港ドル=13円として計算)の6割を1、2年の研究開発費に充てると公表していた。過去2年間の業績推移をみると、2022年12月期は19%減収、60億4480万人民元(1269億円、1元=21円で計算、以下同様)の赤字、2023年12月期は10.6%減収、64億4016万人民元(1352億円)の赤字で、資金繰りの悪化、開発資金が枯渇するのではないかとの懸念、成長期待の剥落などが重なり、2024年4月19日終値は過去最安値となる0.580香港ドルを付けている。しかし、そこから技術交流イベントを経て株価は急騰、5月6日終値は1.68香港ドルで引けている。