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厚労省が断行した介護報酬引き下げで「自宅で最期を迎える」ことが困難に 疲弊する事業者続出で「利用者に大きな犠牲」と上野千鶴子氏が警鐘

社会学者の上野千鶴子さん(時事通信フォト)

社会学者の上野千鶴子さん(時事通信フォト)

訪問介護事業者の倒産は過去最多

 訪問介護事業所は、地域によって収益が大きく変わる。人口が密集している都市部では、利用者が近隣に固まっているため、スタッフが通いやすい。サービス付き高齢者住宅や、有料老人ホームの敷地内にある訪問介護事業所であれば、数分で利用者のもとに行くことも可能だ。

 ところが、僻地はそうはいかない。訪問先まで数十分かかるといったケースも多く見られ、利用者のもとへ通う移動時間にサービス料金は発生しない。都心よりも手間や時間がかかるため、利用者を増やすことに限界がある。

 法人のなかには、訪問介護事業は赤字で、ほかの事業で収益を上げることで生き残っているところもある。東京商工リサーチの調査によれば、2023年の「老人福祉・介護事業」の倒産件数は122件。うち訪問介護事業者の倒産は過去最多の67件となっている。

 訪問介護事業者の経営が厳しいという実態があるなかでの基本報酬の引き下げにより、訪問介護事業所はどんどん立ちゆかなくなっている。上野さんは、最後にこう強く警鐘は鳴らした。

「厚労省は来年の9月に実態調査をして、そのデータをもとに次期見直しを検討すると言っているのですが、それまで待てません。次期改定ということは3年後です。それまでの間に、現場でどれだけの犠牲が出ることか。介護事業所に犠牲が出るということは、利用者に大きな犠牲が出るということですから。これを3年間座視しているわけにいかない。今回の改悪に対して、即時撤廃を求めて発信を続けていきます」

 自宅で幸せな最期を迎える――それが望めなくなる状況になってはならない。

【プロフィール】
上野千鶴子(うえの・ちづこ)/社会学者。1948年、富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長などを務める。『在宅ひとり死のススメ』など『おひとりさま』シリーズがベストセラーに。

聞き手・構成/末並俊司

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