不作でカカオ農家が減ればますます価格が不安定になる
カカオは、種まきから実ができて収穫できるようになるまでに3~4年を要する。そのうえ、発酵や乾燥、梱包など、人の手で作業しなければいけない工程が大半を占める。生産者には大きな手間がかかるが、不作の影響で生産体制がストップしてしまったカカオ農家もあるという。
したがって、当面は厳しい需給環境が続く見込みだと市川氏は語る。
「そもそも主要生産国のカカオ農家は家族経営の小規模農家がほとんどで、手作業で行わなければならない仕事も多く、機械化による仕事の自動化も困難なのです。また、カカオ農家の方々がカカオ生産で得られる賃金は、設備投資も十分に行えないほど先進国基準から見るとあまりにも少ない額となっています。
今回の不作で、カカオ農家を辞めてしまう方々も現れていると耳にしました。カカオの生産は、工程が多いため、知識やノウハウがないと十分な収穫量を見込むことはできません。不作の影響でカカオ農家も減ってしまうと、今後ますますカカオの価格は高騰し、不安定になる恐れがあります」
カカオ取引を専門とする投資家の動向も、価格推移に影響を与えているという。
「5月下旬に入り、1トンあたりの価格は7300ドル付近まで下がっています。1万ドルを突破したことで、機関投資家などが利益を見込み、売りに回ったことが要因と考えられるでしょう。カカオ豆の国際価格は、ニューヨーク市場とロンドン市場の先物価格が指標となっているのです。
しかし、今の需給状況から考えると、このまま価格が下がり続けるとはいいきれません。これほどのカカオ豆の価格高騰は、歴史上、類を見ない現象で、多くの関係者が経験したことがありません。生産体制がどうなるか、取引状況はどう変化するのか、関係者は日々手探りで模索しているのが現状です」
まさに未曽有の“チョコレート危機”に陥っている。チョコレートのさらなる価格上昇を抑えるには、現在のカカオ農家の待遇を中長期的に改善することが肝要だと市川氏は指摘する。
「カカオの価格は、複雑な要因によって決定するので、今すぐにどうにかできる問題ではありません。ですが、特に西アフリカの主要生産国のカカオ農家の収入を上げることができれば、安定した生活につながり、農家がカカオ栽培をやめずに継続してくれることになります。今後も私たちが今後も安心してチョコレートを味わい続けるためには、カカオ生産国に意識を向けること。遠い国でカカオを栽培している人々の生活を考え、ある程度はカカオ豆の価格上昇を受け入れていくことも、重要となってくるでしょう」
カカオショックの裏側にある主要なカカオ生産地やカカオ農家の人々を考えることなしに、チョコレートの未来はない。まずはカカオ生産地が苦境から脱却するために、世界中が対策を考えていかなくてはいけない。
(取材・文=中田椋/A4studio)