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【危ない日本の公道】電動キックボード、モペッドの事故件数が爆増するなか、さらにヤバい“電ジャラス自転車”流行で公道がカオスに

電動キックボードにサドルが付いた「電動サイクル」も登場(疋田智氏提供)

電動キックボードにサドルが付いた「電動サイクル」も登場(疋田智氏提供)

 日本の公道を“危ない乗り物”が横行する状態が続いている。見ようによっては免許不要で手軽な自転車にも見えるペダル付き電動オートバイ・モペッドに加え、モーター走行可能な「電動キックボード」や、座った姿勢で移動できる「電動サイクル」が、車道や歩道を自由に行き来しているのだ。“カオス”と化した日本の公道の現状に警鐘を鳴らし続ける識者に話を聞いた。フリーライターの池田道大氏がリポートする。(全3回の第3回。第1回から読む

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 街を爆走する危ない乗り物は、スロットル付きにもかかわらず、ノーヘル・ナンバー無しで街を疾走する違法フル電動自転車「モペッド」だけではない。最近すっかり目立つようになった、「電動キックボード」も負けてはいない。

 電動キックボードが蔓延する背景にあるのが法改正だ。2023年7月に施行された改正道交法により、「特定小型原動機付自転車」という区分が新設され、車体のサイズや各種の保安基準、さらに最高速度20km/h以下などの要件を満たせば、16歳以上ならば運転免許不要で、車道左側や自動車レーンを走行できるようになった。

 さらに「特定小型原動機付自転車」のうち、切り替えスイッチで最高速度6km/h以下に設定できる車体は「特例特定小型原付自転車」に区分され、歩道も走行できる。

車道をノーヘルで走行する電動キックボード(疋田智氏提供)

車道をノーヘルで走行する電動キックボード(疋田智氏提供)

 どちらの区分もナンバープレート取得と自賠責への加入は必須だが、運転免許は不要で、ヘルメットは努力義務のため着用しなくても大丈夫。自転車に乗るような気軽なノリで、運転免許を持っていなくても車道や歩道をノーヘル走行できるのだ。

 法改正された昨年7月以降、車道や歩道を電動キックボードで闊歩する若者が急増した。運転免許を持たず、交通ルールに疎い若者が交通量の多い車道を電動キックボードが列をなして走行する姿に、「どう考えても危険でしょ」とハラハラする歩行者やドライバーも多いはずだ。

《自転車よりもフラついてるキックボード乗りの方がヘルメット必要じゃないかな。できれば、車道、歩道からキックボード、消えてくれないかな…。運転してもフラッと出てくるから怖いわ》

 5月17日にはアルピニストの野口健氏がXでそう苦言を呈して話題となった。

ノーヘルで車道の端を走行する電動キックボード(疋田智氏提供)

ノーヘルで車道の端を走行する電動キックボード(疋田智氏提供)

電動キックボード、モペッドの事故件数が爆増している

 実際に事故件数は「爆増」している。警察庁によれば、電動キックボードによる交通違反で検挙された件数は法改正後の半年間で計7130件に達した。内訳は「通行区分違反」が3440件、「信号無視」が2685件で、人身事故は85件で死者はいなかったものの、重傷事故が5件あったという。

 今年2月には愛知県名古屋市の路上で40代男性の運転する電動キックボードが一方通行を逆走し、道路を横切ろうとしていた男性に衝突して重傷を負わせた。このキックボードは運転免許が必要なタイプだったが、40代男性は無免許で「免許がいるとは思わなかった」と供述したと報じられた。

 モペッドの事故も増えている。2023年のモペッドによる人身事故は前年の2倍に達し、今年1月にはモペッドを無免許で運転した24歳男性が、70代の女性をはねて全治2か月のケガを負わせたなどとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)などの疑いで書類送検された。

さらにヤバい“電ジャラス自転車”とは

 今後、こうした事故が増えていくと予想されるが、道路の混乱はモペッドや電動キックボードにとどまらない。「この先、さらにヤバい“電ジャラス自転車”が目につくようになるはずです」と語るのは、自転車評論家の疋田智さんだ。

「法的には電動キックボードと同じ『特例特定小型原動機付自転車』に属する“電動サイクル”です。一言でいうと電動キックボードにサドルがついたタイプで、ペダルみたいなものがついているように見えるけど“足場”としてあるだけで回すことはできず、スロットルがあって原付バイクのように運転します。しかも16歳以上なら無免許・ノーヘルで、最高速度20km/hまでなら車道、6km/hまでなら歩道を走れます。低速とはいえ、出力は普通の電動アシスト自転車の3倍に相当する600WまでOK。つまり加速性能がすごい。最高速まで一瞬という高出力の恐ろしさを秘めています」(疋田さん)

 今後、電動キックボードに代わって、電動サイクルが街の乗り物の主流になると疋田さんは予測する。

「電動キックボードは立ちっぱなしだから疲れるし、重心が上にあって安定しませんが、電動サイクルはサドルがあって重心が低いから楽に運転できます。私は実際に乗ってみましたが、遊園地の遊具みたいで楽しい。楽しく、簡単に乗れてスピーディでパワフル。しかも免許もいらず、ヘルメットも努力義務に過ぎないのでお手軽です。近い将来、大流行するでしょうね。……歩道上で」

電動サイクルに試乗する疋田氏「楽しいですが、(歩道走行が許される)時速6kmだとふらつきます」(疋田智氏提供)

電動サイクルに試乗する疋田氏「楽しいですが、(歩道走行が許される)時速6kmだとふらつきます」(疋田智氏提供)

 すでに千葉や埼玉では電動サイクルのシェアリングサービスが始まっている。だがモペッド以上に恐ろしい対人事故を起こす危険性がある、と疋田さんは警鐘を鳴らす。

電動サイクルはすでにシェアリングサービスが始まっている(疋田智氏提供)

電動サイクルはすでにシェアリングサービスが始まっている(疋田智氏提供)

「多くの電動サイクルは歩道を走るでしょう。でも6km/hなんて絶対に守りませんよ。早歩きのスピードですよ、6km/hなんて。スゴい加速で20km/hも出るんです。もしそれで歩道を走れば歩行者とぶつかる危険があるし、電動サイクル同士が出会い頭に衝突することもあるでしょう。危なくて仕方ない。

 困ってしまうのは、モペッドは違法だから取り締まれるけど、電動サイクルは合法だという事実です。なんでナンバープレートのついた乗り物が無免許で歩道を走れるのか、私にはワケがわかりません」(疋田さん)

警察・国交省関係者も困っている現状

 今でも街中を違法なモペッドが我が物顔でジグザグ走行し、車道に目を向けると電動キックボードがひた走る。その上、免許がいらない電動サイクルが歩道や車道を走り回れば、歩行者やドライバーの危険は増すばかりだ。どうして日本の道路はこれほどまでカオスになってしまったのか。誰もが「なぜ?」と不思議に感じているのではないだろうか。

「確かにこのところの日本の『電動○○』は非常に性急にコトが運んでいます。これは私も本当に不思議でいろいろ聞いて回ったのですが、警察の関係者は『現場が本当に大変で、何でこんなことが決まったのかさっぱりわからない』と言い、国交省の関係者は『私たちも困っているんです』と言うばかり。誰がどのように決めたのか、さっぱり見えてきません。

 知人の外国人学生からは『日本はあらゆることが秩序だっているのに、なんで道路だけこんなにデタラメなのか』と言われました」(疋田さん)

浅草寺の境内に乗り入れた電動キックボード(時事通信フォト)

浅草寺の境内に乗り入れた電動キックボード(時事通信フォト)

モペッドの「全国一斉取り締まり」で周知を図るべき

 道路の大混乱は、誰が本当の責任者なのかわからない日本社会が生んだ宿痾なのかもしれない。または「思いつきだけでものを語って放り出す政治家」なんていう存在もあるかもしれない。その象徴であるモペッドについて、疋田さんは「全国一斉取り締まり」もやむなしという。

「警察はどこかの時点で全国一斉取り締まりキャンペーンをやるかもしれません。そのとき、そこそこ売れている有名人を『無免許・無登録・無保険』で逮捕するのではないでしょうか。ノーブレーキピストの時のように。そうしたらテレビのワイドショーなんかでバンバン取り上げられて、周知が図られるでしょう。

 70年代の暴走族ブームの際、ひどい暴走族には所有権放棄の誓約書を書かせて、バイクを没収していました。それと同様に、あまりに危険なモペッドは没収してもいいかもしれません。いずれにせよ、このまま何も手を打たないでいると大変なことが起きますよ」

 公道は最も基本的な公共インフラだ。取り返しのつかない事故が起きる前に、老若男女、誰もが安心して通行できる道路を取り戻す必要がある。

(了。第1回から読む

取材・文/池田道大(フリーライター)

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