違法状態で公道を走るペダル付き電動オートバイ「モペッド」が増えている。警察の取り締まりが追いつかず、交通弱者である子供や老人らが危険に晒される状態が続く。そうした事故が招く悲劇は加害者となりうる運転者にも同様に襲いかかる。モペッドの違法運転をする者に待ち受ける「地獄の賠償ロード」について警告する識者に、フリーライターの池田道大氏が聞いた。(全3回の第2回。第1回から読む)
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近年、都心を中心にかなり見かけるようになったモペッド。ペダルがあって見た目は電動アシスト自転車に似ているが、法律上は原付バイクなどと同じ扱いだ。公道を走行するには運転免許やナンバープレートが必要で、ヘルメットも着用しなくてはならない。
しかし、そうしたルールを無視してノーヘル・ノーナンバーの“違法モペッド”で歩道を爆走する姿に「危ない!」と身の危険を感じたことのある人も多いはずだ。
そもそもモペッドには誰が乗っているのか。都内のネット販売店は「通勤用に買われる方が多い。デリバリー関係の仕事で必要と言うケースも目立ちます」と語る。
自転車評論家の疋田智さんは「夜の街の需要」を指摘する。
「事情通の話では、モペッドの人気は歌舞伎町や六本木のホストから始まったようで、新宿や渋谷、港区の界隈でよく見かけます。燃費もかからず交通費を浮かせられるし、何しろ見た目がカッコいい。ヘルメットを被らなくてもいいから髪型が崩れないし、夜中に酔っ払って乗っても捕まらないと思っているのでしょう。本当はヘルメットの着用が必要で、当然ながら飲酒運転も禁止なのですが、“自転車だから大丈夫でしょ”とタカを括っているようです」
死亡事故なら1億円の損害賠償。自己破産してもチャラにならない
最も危惧されるのは事故の発生である。実際に2023年のモペッドによる人身事故は前年の2倍に達し、今年1月にはモペッドを無免許で運転した24歳男性が、70代の女性をはねて全治2か月のケガを負わせたなどとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)などの疑いで書類送検された。
「全治2カ月ですんだのは、まだ運が良かったかもしれません」と疋田さんは語る。
「重くてパワーのあるモペッドが歩行者と衝突したら、最悪の場合は相手が死亡する怖れがあります。その場合、1億円ほどの損害賠償になる可能性がありますが、ナンバープレートを取得していない運転者は基本的に自賠責や任意保険に入っていないと考えられ、全面的に賠償責任を負うことになります。たとえ自転車保険に入っていたとしても、モペッドは自転車ではないので、保険は適用されません」
仮に1億円の損害賠償になった場合、無保険の加害者が全額を支払うことは難しく、自己破産することが想定される。だがモペッドの事故は自己破産しても“チャラ”になるわけではなく、生涯にわたって借金を背負う可能性が高いという。
「違法なままモペッドを乗り回していたことが『故意または重大な過失』と認定されると自己破産しても免責されません。これは破産法第253条に明記されています。その後の人生は、賠償額を払い終えるまで収入の4分の1を差し押さえられることになります。しかも、公的な延滞金利は最大で年7.3%〜14.6%にもなりますから、一生かかっても払いきれない地獄の賠償ロードが始まる可能性もあります。モペッドには一生を棒に振るリスクがあることを若い人たち人はぜひ知ってほしい」(疋田さん)
議員会館の駐輪場に違法モペッドが駐車されていた
被害者も加害者も不幸にする乗り物だけに、まずは違法性や危険性について周知徹底することが求められる。だが今年初め、東京・永田町の参議院議員会館を訪れた疋田さんは、敷地内にある駐輪所を見て目を疑った。そこには、ナンバープレートのないモペッドが堂々と駐車されていたのだ。
「しかも、その車両はバッテリーが外されていました。ということは、議員会館の中にバッテリーを充電できる部屋を持つ人が所有者である可能性が高い。デリバリーや出入り業者ではなく、国会議員本人かその秘書などが違法モペッドに乗っているかもしれない。本当にびっくりしました」(疋田さん)
危険な乗り物の横行に、警察も手をこまねいているわけではない。4月には警視庁が東京・神宮前の交差点でモペッドの交通違反の取り締まりを実施し、無免許運転やヘルメットの不着用などの違反により6件を摘発した。だが見た目では違法かどうかの見分けが難しく、警察の人員も不足しているため、取り締まりはなかなか進まない。
購入者に「自主的にナンバープレートをつけてください」と言っても無理
道路の危険が増す中、求められるのは新たなルール作りだと疋田さんは訴える。
「道路関係の法律は古く、ネット販売の規制などが書かれていません。危険なモペッドを減らすには、販売店に網をかけるしかない。購入者に『ナンバープレートは自分の責任で自主的につけてください』と言っても付けるはずがないので、販売店にナンバープレートの登録代理を義務づけるべきです。原付バイクの場合、販売店がナンバープレートの代理登録をして、同時に自賠責に加入するのが一般的でしょう。モペッドも同じようにすればいい」
都内のネット販売店員も「定められたルールには従います」と語る。
「現状は警察からの具体的な指示はなく、私たちが自主的にお客さんに案内しています。仮に販売店がナンバープレートの代理登録をするルールを国が決めれば、私たち売る側はそれに沿って対応していきたいと思っています」
国民の安全を守るために早急な対策が求められるが、実はこの先、ますます道路の危険が増える可能性があるという。さらにヤバい“電ジャラス自転車”の流行の兆しが見え始めているのだ——。(第3回〈【危ない日本の公道】電動キックボード、モペッドの事故件数が爆増するなか、さらにヤバい“電ジャラス自転車”流行で公道がカオスに〉に続く)
取材・文/池田道大(フリーライター)