確かに、性行為は夫婦の間の基本的要素ですから、お金を払うのはおかしなことですが、義務のないお金をあげるという面では贈与と同じで、離婚後は取り消せません。あるいは、あなたは共同生活の中で認められている小遣いから支払ったかもしれません。その場合、奥さんがその報酬を貯金して残っていれば、夫婦共有財産として財産分与により“半分寄こせ”との理屈もあります。ただし、奥さんが望まない性行為に応じた報酬なら、奥さんだけに帰属するお金として渡したといえるため、共有財産とはいえないと思います。
なお、不特定の人からお金をもらう売春は、公序良俗に違反するので、売春契約は無効ですが、ご質問のような夫婦間の場合、不特定ではなく、売春ではありません。
また、不法な原因のために支払ったお金は、不当利得になっても取り戻せないという理屈があります。どう考えても“返せ”は、無理な注文です。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2024年6月7・14日号