能登半島地震の爪痕は深く、復旧・復興の遅れが目立つ。馳浩・石川県知事は被災者の声や有識者の意見を聞きながら復興プランをまとめているが、経営コンサルタントの大前研一氏は「トップダウンで進めるインフラの集約化」を提言する。どういった内容か、大前氏が解説する。
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能登半島地震から約5か月が経過した。しかし、未だに仮設住宅は大幅に不足しているし、奥能登の一部では断水が続いている。ようやく金沢─能登間の道路はつながったが、災害復旧関係車両しか通行できない区間もある(本稿執筆時点)。
一方、4月にマグニチュード7.2の地震が起きた台湾では、すぐにインフラが復旧し、十分な仮設住宅も供給された。なぜ能登半島の復旧・復興は遅々として進まないのか? 今回の反省を踏まえ、どういう改善策が必要なのか? 以前、本連載でも紹介したRTOCS【*】という思考法で「もし私が石川県知事だったら、どうするか」を考えてみたいと思う。
【*注 Real Time Online Case Study/「もし自分が○○だったら」と仮定し、リーダーの立場から現状を踏まえて将来像を予測し、今後の具体的な打ち手を1週間で考えるBBT大学独自のケーススタディ】
馳浩知事は被災者の声や有識者の意見を聞きながら、インフラの強靱化を中心にした総花的な「創造的復興プラン」を策定しようとしている。だが、私が石川県知事だったら、将来的な市町合併を見据えて、インフラの「集約化」をトップダウンで迅速に進める。
たとえば、水道。能登半島地震の被災地では11万4000戸余りが断水して復旧に手間取った。原因は水道事業を市町単位でバラバラに行なっていることだ。
石川県のホームページによれば、2018年から水道広域化推進プランを進めているというが、上水道は市町別に18事業もあり、簡易水道などを含めると208事業にもなる。これでは復旧が遅れるのも当然で、できればこれを東京都水道局のように、県に一本化するのが望ましい。そうすれば「規模の経済」によって水道管の調査や修理・交換工事がスピーディーになり、水道料金も抑えることができる。
漁港も同様だ。石川県には69も漁港があり、今回の地震で60港が地盤の隆起や防波堤、岸壁の損傷などの被害を受けた。69漁港のうち66漁港が能登地域に集中しているが、早期復旧が困難な港も少なくない。
そこで、能登地域の漁港を3つか4つに集約し、まずそこを可及的速やかに復旧して近代的に改修・整備する。周辺漁港の漁師たちには復旧した最寄りの漁港に“通勤”してもらい、そのための費用は行政が負担する。そうしたほうが被災したすべての漁港を復旧するより安くつくし、災害への備えも強化できるはずだ。